COLUMN
2023/09/22

経営管理DXが進まない日本企業、企画倒れにならないデータドリブン経営の成功のカギとは(1)

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以前ご紹介した「マネジメント体験を起点にデータドリブンな企業カルチャーへ変革」では、ERPや分析基盤の再構築、AIといった新たなテクノロジーの導入に取り組んだとしても、長期にわたるプロジェクトでなかなか成果を実感できない、導入後も結果が期待外れとなるケースが多いことをご紹介した。そこでは、テクノロジーや指標の設計だけでなく、経営層・従業員のマネジメント体験(マネジメントストーリー)を再デザインし、マインド変革をモチベートしていくアジャイルアプローチが成功のカギであるということ、「企画・構想フェーズ」で確実に成果を生み出す6つのプロセスをプロジェクト運営に組み込む手法が有効だということを説明した。
 しかし、これはあくまで成功の第一歩に過ぎず、真の変革にたどり着くには、「企画・構想フェーズ」でモチベートしたまま「実行・定着フェーズ」へステージをシフトさせ、成果を拡大しなければならない。
本コラムでは、「マネジメント体験を起点にデータドリブンな企業カルチャーへ変革」の続編として、経営管理DXにおいて持続的に成果を獲得し、データドリブンな企業カルチャーへ変革するための実践的アプローチ方法やノウハウを前編・後編に分けてご紹介する。前編では、経営管理DXを実行するうえでの課題・成功の方向性について深掘りする。

経営管理DXの「実行時」に直面する3つの障壁

日本企業におけるDXの成功度については、「画期的な成果」を上げている企業が全体のわずか2.8%に過ぎず、「一定の成果」を獲得している企業を含めても約30%にとどまっているという報告がある (※1)。経営管理DXにおいては多くの企業が「企画・構想時」の段階で足踏み・長期化しており、実行に挑戦できている企業は限定的だ。経営管理DXの成功のカギは「企画・構想時」に、体験(マネジメントストーリー)を再デザインし、現行業務をケアしながら、1か月単位で成果にコミットする手法をプロジェクト運営に組み込むことで経営や部門の変革モチベーションを高め、その勢いのまま、「実行」やその先の「定着化」まで、変革の道のりを進み続けることである。このアプローチは以前のコラムでも紹介したが、採用する企業も増えてきている【図1】。しかし、この手法によって「企画・構想時」には、経営や現場が目に見える変化の体感や成功体験、効率化や事業インパクトといった定量的な成果の実感を得られた企業でさえ、「実行・定着時」には、思うように変革が進まず、活動が停滞・縮小したり、最悪の場合、中断したりするケースも少なくない。

では、経営管理DXの実行時に何が障壁となって失敗に陥っているのだろうか? 多くの場合、以下の3つの障壁に直面する。

【図1】経営管理DX成功の取り組みとRidgelinezが推奨するアプローチ

(※1) (出所:日経クロステック/日経BP 総合研究所 イノベーションICTラボ『DXサーベイ 2023-2025 674社の成功・失敗の実態と課題分析』)

(1)既存会議の置き換えに停滞感

体験(マネジメントストーリー)の再デザインで重要なことは、特定部門に閉じたマネジメント会議や業務にフォーカスした取り組みよりも、経営会議や予算会議といったトップマネジメントに係る会議体を出口にすることである。経営会議や予算会議といった経営管理の中核を担う会議体を起点に、企画・構想では現在のアジェンダにリンクする形でBIやダッシュボードをプロトタイピングしていく。こうして経営層や関係部門にデータドリブンなマネジメントの変化を体験してもらうことが、企業内で経営管理DXを加速させるために最も効果的である。併せて、関連部門の既存業務の廃止・スリム化を視野に変革を進めることがデータドリブンな企業文化醸成への近道になる。

しかし、現状の経営報告のアジェンダは報告と承認が大半であり、単に現在の報告の改善を繰り返すだけでは、既存業務の改善や延長線上の取り組みでしかない印象を経営層に持たれかねない。経営層は経営会議を、データドリブンな意思決定、意思決定した打ち手のその後の評価、成果が出たかの効果測定、その先の将来予測といったアジェンダでディスカッションする場へと変革することを期待していたが、一定の改善レベルで足踏みすることになる。結果として、経営層が体験する変化の新鮮味が失われ、活動自体も徐々に鈍化・形骸化してしまう。

(2)影響範囲がブラックボックス

経営管理DXの企画・構想では、データ収集や事前集計といった業務のスリム化を目的として、変革の対象とする会議体に必要となるデータを順次データアセットとして一覧化し、出所やオーナー、デジタル化するうえでの短期・中長期的な課題といった情報を集約・整理することを、以前、紹介した。しかし、トップマネジメントにフォーカスして関連業務を紐解いていくと、各部門内での事前の数字確認や承認プロセスが複雑かつ多数存在することが見えてくる。この部門個別業務が厄介であり、トップマネジメントに直接関連するデータ集計やレポート作成といった業務だけを廃止すればよいわけではない。部門内では、ある業務で利用しているデータが別の業務のインプットになっていることもあるからである。何かを変えようとすると、部門側の業務影響の範囲も広く、経営への報告までに関所がいくつもある。

その結果、経営層が要求する経営数値と事業部門で管理されている数値の間に矛盾や乖離が発生し、経営の要求に対してリアルタイムに数字を提示することができない。トップマネジメント起点で部門の個別かつ冗長な業務のスリム化が進むどころか、負担ばかりが増え、部門から反発の声が上がることも珍しくない。トップマネジメントに関連するデータアセットの一覧化だけでは、部門のローカルデータやアナログなデータ、自動化やデジタル化に対する影響範囲を特定しながら、本格的なデータ整備や無駄な集計業務のスリム化・省力化の実現に必要な要件や課題を把握することは難しい。この問題に対応できない限り、必ずと言っていいほど経営管理DXは停滞する。

(3)新たな指標への抵抗感

経営会議のアジェンダでは、基本的にPLをベースとした業績に係る指標をレポート化、報告されるケースがほとんどであり、場合によっては、その時々で経営層が気にする指標を経営企画や各部門が付け足して報告することが一般的ではないだろうか。しかし、付け足した指標や報告は基本的にその場限りになることが多い。集計した手間や労力の割に定常的に活用されることはなく、新たな重要指標として採用されることも少ない。つまり、いくらマネジメントストーリーを練り上げたとしても、高度なアジェンダにリンクし、新たな指標が追加されたBIやダッシュボードが定着することはほとんどない。付け足した指標がその場限りの報告になるのと同様、新たな指標やグラフが会議で受け入れられる形で実装されるとは限らないのだ。

また、せっかく実装したコンテンツでさえも一部のリテラシーの高いメンバーが利用するだけとなってしまうケースが多い。多くの企業では、様々なBIツールやソフトウェアで個別にレポートが作成され、どこに何があるかが分からないという声が聞かれる。このような状況で、これまで見慣れていない指標を経営企画や各部門から提示されても、経営層自身がどういった意思決定で活用したいか、具体的なイメージも持てるはずもない。企業内の指標やレポートが散らばった環境も、経営層自身が様々な指標を組み合わせながらディスカッションや意思決定を行うことを阻害している。

【図2】経営管理DXの実行時に直面する3つの障壁

変革の「モチベート」から「仕組み作り」へ転換できるかが成功のカギ

経営管理DXを成功させている企業は、どのような工夫で、この障壁を乗り越えているのだろうか? 経営管理DXの成否を分けているのは、企画・構想および実行・定着のフェーズに以下の考え方を組み込んだアプローチである。

企画・構想フェーズ :体験の再デザインを起点に既存のマネジメントや指標に基づく変革を行うきっかけ作り

実行・定着フェーズ :経営・現場双方でこれまで活用されていないデータや新指標を組み込む仕組み作り

経営管理DXの企画・構想から実行・定着に移行するにあたっては、既存のマネジメントや指標による体験の高度化にとどまらず、新指標を組み込んだ新たな体験へとマネジメントの変革範囲を拡げる必要がある。さらに変革に飽きさせず、モチベーションを低下させず、目新しいだけで使いどころのない変革にならないように、現在の業務へと組み込まれたリアリティあるアプローチを実践することが重要となる。では、実行・定着フェーズにおいて経営管理DXを実践している企業は具体的にどのようなアプローチをとっているのだろうか? その成功のカギとなるのは、企画・構想フェーズで大事にしていた体験起点の変革を基本として、以下3つのポイントを組み込んだアプローチが実行時に設計・実践できるかである。

(1)目先のマネジメント体験の改善から省力化・高度化に注力した活動へシフト

企画・構想で変革の契機となったトップマネジメントに係る会議体を起点として、さらに経営管理DXの活動や成果を広げていくにはどうすればよいのか? 経営層は単なる報告だけでなく、意思決定後の評価や効果、将来の見通しについてのアジェンダを求めており、現状の会議アジェンダから段階的にBIやダッシュボードを変化させることで、経営管理を高度化できるかがカギとなる。そして、その高度化に合わせて各部門の単なる業務報告は廃止・省力化できるように、新たな経営管理にリンクした部門個別実施の事業管理のあり方や見直しにも経営企画やDX推進部門の伴走が必要になる。

つまり、変革の契機となったマネジメント体験を起点に関連部門の複雑な承認プロセスや個別マネジメントを含めた経営管理DXを全社的な活動として検討・実行できるかが重要となる。具体的には、今までアジェンダに組み込めなかったテーマを盛り込んだマネジメント体験へのモデルチェンジと、この変革のモデルチェンジのステップを関連部門へ横展開・スケールアウトしながら行っていく。さらに、経営管理DXの実行時には、関連部門の事業管理業務まで一連の活動に踏み込み、全社の活動予算としてプロジェクト化することで、一気に経営管理DXが加速する。

(2)データアセットの現状とありたい状態とのギャップを埋めるプロジェクト運営

企画・構想で整理したデータアセットの一覧から経営や各部門の関連マネジメントまでを含めた必要データの特定やデータ整備に向けた課題、不要業務の変更に伴う影響をどのように明らかにしていくのか? 企画・構想フェーズで変革の実感を一定の期間得ることができた時点で、網羅的な調査・検討を実施せずとも、構想時に作成したデータアセットによってデータに関するプロセスや課題に十分な情報が整理できている。この情報に基づき、データとデータの関係性をフロー図に変換して経営報告のアジェンダに紐づく業務やデータの流れを鳥瞰図(データオーバービュー)として可視化することで、経営だけでなく関連部門の事前報告や承認までを含めたプロセスが見えてくるのだ。つまり、この鳥瞰図をもとに各業務やデータの流れをデジタル化・自動化する対象や、現状からありたい状態までのギャップとその対応による影響範囲を特定できるようになる。

構想時にはデータアセットの情報をベースにトップマネジメントに係る会議体の変革のきっかけ作りまで、スピードを重視したプロジェクト運営を実施してきた。しかし、実行時には経営管理DXに係る関係者と自社内のデータ集めや報告、承認のバケツリレーの省力化、経営管理の高度化に向けたプロジェクト運営にシフトし、データアセットとデータオーバービューの両輪での関係者コミュニケーションや課題・進捗管理を実現できるかが重要となる。このプロジェクト運営にシフトできれば、新たなデータの取り込みまで対象にすることで、既存のデータ整備の課題だけでなく、企業内で活用されていないデータの整備や経営管理の高度化までのリアリティある道筋が見えてくる。

(3)新指標や未活用データとの接点作りと業務への組み込みまでのサイクル構築・仕組み化

今まで経営層が見たことのない指標やデータを新たな報告に組み込んでマネジメント業務を高度化するには、経営層と新指標の接点となる環境と、指標に慣れて活用先を考える時間を増やす運用が重要となる。つまり、経営層に対して新指標を分かりやすいビジュアルで閲覧可能とする環境を公開することで、経営層自身がこれまで会議で活用してきたBIやダッシュボードに指標の追加リクエストをしたり、業務への組み込みを指示したりしてアップデートしていくサイクルや仕組みを構築するのだ。この仕組みが経営管理DXの実行時に実現できれば、未体験の指標に対する経営層の抵抗感を下げ、経営層自身が経営会議や関連マネジメントの高度化をリードすることになり、経営管理DXは確実に加速する。

したがって、経営管理DXを成功させるには、マネジメントの体験を起点に変革のきっかけを作り、データアセットのさらなる活用と経営層が自ら新指標を経営管理業務に組み込むサイクルや仕組みを構築することが必要不可欠である。そして、この3つのポイントを組み込んだアプローチを実践できれば、企画・構想フェーズで目指した従来の延長線上でない新たな経営管理の実現にようやく辿りつけるのである。

このように経営管理DXの実行は、経営層のモチベーションを維持しながら新たな業務・データ・指標を組み込んでいくことが重要ポイントである。後編では、Ridgelinezの考えるアプローチと実際の顧客事例について紹介する。

執筆者

  • 西尾 佳祐

    Director

  • 浦谷 秀一

    Senior Manager

※所属・役職は掲載時点のものです。

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