COLUMN
2023/09/22

経営管理DXが進まない日本企業、企画倒れにならないデータドリブン経営の成功のカギとは(2)

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経営管理DXにおいて持続的に成果を獲得し、データドリブンな企業カルチャーへ変革するためには、「企画・構想フェーズ」でモチベートしたまま「実行・定着フェーズ」へステージをシフトさせていかなければならない。本コラムでは、その実践的アプローチ方法やノウハウを前編・後編に分けてご紹介しており、前編では、経営管理DXを実行する上での課題・成功の方向性について論述した。後編では、具体的なアプローチおよび顧客事例についてご紹介する。

企画倒れにならない、経営管理DXを成功に導くRidgelinezのアプローチ

経営管理DXの企画・構想時に有効な検討プロセスやアウトプットは以前ご紹介しているが、実行時についても企画・構想の成果物をベースに「体験起点と指標起点」を組み合わせ、業務とデジタルの両輪で経営管理DXを推進していくアジャイルアプローチを定義している【図3】。本コラムでは「マネジメント体験を起点にデータドリブンな企業カルチャーへ変革」の企画・構想を踏まえて、実行時に実践すべき3つのフレームワークを紹介したい。過去に経営管理DXに携わり、プロジェクトが中断したり、企画倒れに終わったりした経験がある読者には、以前紹介したコラムと併せて参考にしていただきたい。

(1)企画・構想でデザインしたマネジメントストーリーをバージョンアップ

企画・構想では、現在のアジェンダにリンクする形でマネジメントストーリーを設計し、BIやダッシュボードをプロトタイピングしてきたが、実行時には、経営会議や関連する業務を省力化・高度化し、モデルチェンジするための新たなアジェンダをマネジメントストーリーに組み込み、バージョンアップする必要がある。そこでRidgelinezでは、経営会議や各種マネジメントのアジェンダのレベル(以下、Lvと表記)を4つに分類し、各Lvに応じた項目をマネジメントストーリーで設計することで高度化を後押しする。具体的に高度化に向けたLvを以下のように定義している。

  • Lv1「現行アジェンダのBI化」:マネジメント体験のToBe、現行体験とのギャップ、時間効率化効果までのシナリオ作り
  • Lv2「意思決定後の評価」:施策やアクションのパターン化と施策の進捗や評価・査定方法を踏まえたポートフォリオ管理
  • Lv3「施策の効果測定」:財務的定量効果のインパクト、関係者からの定性評価含めた施策の成功・失敗要因の分析・報告
  • Lv4「予測経営の実践」:企業全体のパフォーマンス(成長)・リスク(危機感)の視点での既存指標・新指標による将来見通し把握

この4段階のLvに合わせてマネジメントストーリーに組み込む項目を再定義・フォーマット化し、トップマネジメントが目指すLvに応じた経営管理や事業管理の変化点を経営企画やDX推進部門が中心となって関係部門とすり合わせていくことで、マネジメントストーリーを企業全体でバージョンアップさせることができる。それができれば、このマネジメントストーリーをもとにプロトタイピングおよび会議アジェンダでの評価をアジャイルに繰り返すことで、企画・構想から変革してきたトップマネジメントの関連業務に対して、モチベーションを下げることなく、企業全体で実践的に省力化・高度化することができるのである。

(2)経営管理DXに適した検討ドキュメント兼プロジェクト管理ツールを整備

経営会議に向けた準備として、部門ごとに複雑に個別管理されたデータやその場で都合よく付け足されたデータのバケツリレー、その周辺での事前確認や承認といった全体の流れを紐解くには、マネジメントストーリーのバージョンアップとあわせて、データアセットとそこから変換したデータオーバービューを活用したプロジェクト運営を行うことが重要である。そのプロジェクト運営を実現するためにRidgelinezでは、下記3つのドキュメントを経営管理DXの検討およびプロジェクト管理ツールとして定義している。

  • マネジメントストーリー:トップマネジメントに係る会議体の体験変革の目的、会議アジェンダの高度化までのシナリオ
  • データアセット:トップマネジメントに係る会議体の体験変革に必要なシステムやローカルを含むデータソースの一覧
  • データオーバービュー:関連業務を含めたデータの流れやデジタル化・自動化の対象範囲を特定するデータ鳥瞰図

上記は単なる検討用ドキュメントではなく、業務の変革、データ整備、デジタル化・自動化の実現までの課題や対策、関係者との合意事項を含め、最新のプロジェクト状況を常にアップデート・共有する目的でフォーマット化している。決められたルール・プロセスに従って運用することで、経営管理DXを停滞させることなく、プロジェクトを推進することが可能となる。関連業務を含めたデジタル化・自動化範囲を特定した後、サブプロジェクトとしていくつかの活動を立ち上げることもあるため、複数のプロジェクト管理に対応するうえでも、この3つの管理ツールが役に立つ。

経営管理DXでは、データ課題の有無、課題に対する短期・中長期対策、将来を見越して現状とるべき暫定的な運用や手動によるデータ作成など、課題が多岐にわたり、その課題に対して、トップマネジメントに係る会議の主管部門、関連する業務部門やデータオーナー、関連するシステム担当部門といった多くのステークホルダーが関わる。様々な検討事項について、AsIs/ToBe/Targetや影響範囲を特定し、各ステークホルダーが同じ目線で見るには、やみくもに検討を進めるのではなく、変革のシナリオに沿ったデータ整備とプロジェクト管理を両立することが必要不可欠である。Ridgelinezでは経営管理DXに適した検討ドキュメントとプロジェクト管理ツールを整備したうえで、社内で専門職と認定されたプロジェクトマネージャーがツールを使いこなし、プロジェクトを推進する。

(3)経営管理DXのコンテンツ(体験と指標)とのタッチポイント環境をパッケージ化

現在の会議やレポートの単なる置き換えの延長にしないために、新指標の追加により高度なアジェンダにリンクしたBIやダッシュボードを実現し、新たなマネジメントを経営や関連部門含む業務に定着させる必要がある。そこで、未体験の指標への経営層の抵抗感を下げ、経営層自身が経営会議や関連マネジメントの高度化をリードする仕組みを実現することが重要であると、本コラムの前編にて説明した。Ridgelinezは経営管理DXで検討・実装したあらゆるコンテンツの入り口を一元的に管理し、PCやタブレットからアクセス可能な環境一式をパッケージ化している。これを活用することで、経営や部門に対して、新指標やこれまで活用したことのないデータへのタッチポイントを簡易的に構築・強化していくことができる。結果、経営や関連部門がその指標に対して慣れ、活用先を考える時間を増やす“場の提供”をしながら、各会議アジェンダにリンクした体験起点でのBIやダッシュボードコンテンツに対して新指標を組み込むリクエストを直接引き出すことが可能となる。
こうしてデータドリブンな変革を企業内で自分ゴト化させていく。体験起点と指標起点の両アプローチでデータやコンテンツに一元的にアクセスすることが可能な“場”を提供し、経営や各部門が自らを自主的に育てていくことで経営管理DXのゴールへと近づくのだ。言い換えると、この環境を軸に指標から体験を高度化するサイクルを構築するとともにRidgelinezからのスキルおよびナレッジのトランスファーができれば、企業内で持続的に成果を実感しながら経営管理DXを実行するカルチャーが出来上がる。

【図3】「体験起点と指標起点」を組み合わせた経営管理DXのアジャイルフレームワーク

3つのアプローチを組み込んだプロジェクト実践事例

国内外で建築・土木工事を手掛ける某大手ゼネコンがDXの取り組みを本格化させるにあたり「経営管理DX」は重要な施策の1つであった。同社は、経営管理DXの企画・構想においては、経営会議や経営上重要な会議をターゲットにしたマネジメントストーリーを起点としてBI化および業務への活用を強く推進してきた。一方で、各会議体でチェックする経営数値は、システムからのデータ抽出タイミング、人手による加工作業、報告資料上での駆け引きによって、経営と現場で管理する数値にギャップがあり、新たな経営管理に向けた意思決定の効率化や高度化へシフトしていくうえで大きな課題を抱えていた。そこで、Ridgelinezが提供するアプローチを活用し、体験の高度化、各ステークホルダーと課題を共有したプロジェクト運営、インテリジェンスポータルの企画、設計、実装、リリースをアジャイルで推進した。

プロジェクトを開始して約1年、経営層から各本部の担当までを含んだ約9000名の従業員が既存の経営指標や追加された新指標にインテリジェンスポータルと呼ばれる環境でアクセスし、データやコンテンツをチェック・活用するまでに変革を遂げた。現在は社長をはじめ、執行役員・本部長からは、新たな非財務指標の掲載リクエストも出ており、インテリジェンスポータルの本来の目的である経営層からの自発的な新指標抽出という成果もあらわれ始めている。ある本部長は、今まで手作業でデータを収集し、資料として取りまとめて顧客へ提示していた作業についても、今はタブレットで最新かつタイムリーなデータを顧客へシェアするといった行動変容が見られ、経営管理DXによる業務の変化はクライアントや社内からも高く評価され始めている。今後はこの取り組みを自社で内製化して変革を継続できるようにRidgelinezからスキルやナレッジのトランスファーを行うことを計画している。

ここまで、経営管理DXを企画倒れにしない実践的なノウハウとして3つのアプローチのポイントについて、プロジェクト実践事例も交えて紹介してきた。今後は、Ridgelinezで実際に行ったスキルトランスファーや運用のための体制作り、データ基盤やガバナンスルールの構築など、経営管理DXのプロジェクトをさらに盤石にするノウハウについても、実績や学びを踏まえてご紹介していく予定である。これから経営管理DXを推進していくチェンジリーダーに伴走し、データドリブンな企業変革のゴールまでご支援したい。

執筆者

  • 西尾 佳祐

    Director

  • 浦谷 秀一

    Senior Manager

※所属・役職は掲載時点のものです。

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