サーキュラーエコノミー実現に向けたリース会社のビジネスモデル変革の方向性

近年、世界的な資源制約に直面する中で、持続的な成長を遂げるための仕組みとしてサーキュラーエコノミーが注目されており、企業には廃棄を前提としたビジネスモデルから、廃棄を出さずに資源を循環させるビジネスモデルへの転換が求められている。
そのビジネスモデルへの転換のためには、資源から製品を生産するメーカーなどの動脈企業と、消費された製品・部品や資源を再生するリサイクル業者などの静脈企業が連携し、資源を使い続ける仕組みを構築することが必要不可欠となる。
本コラムでは、従来、動脈企業と静脈企業の双方とリレーションを構築してきたリース会社がサーキュラーエコノミーに取り組むことの意義と方向性について示唆する。
サーキュラーエコノミーとは
サーキュラーエコノミーという言葉はここ数年頻繁に聞かれる言葉であるが、意外にも正しく理解されていないのではないだろうか。これまでの大量生産・大量消費・廃棄型の社会は、資源採掘から製造、破棄されるまでが一方通行となる線形の経済活動(リニアエコノミー)を生み、気候変動や天然資源の枯渇などの環境問題の一因となっている。このような経済活動に代わり、新しい経済の仕組みとして登場したのが、サーキュラーエコノミーである。
サーキュラーエコノミーの真の狙いは、これまで一方通行であった流れを閉じて資源を循環させることにより、”廃棄物を出さない仕組み”を構築し、その理念の下、製造された製品をユーザーが「できるだけ長く使い続け・使い倒す」ことで、最小の資源で最大価値を創出する経済活動のことである。
”資源を廃棄”することを前提とした「廃棄の先延ばし」としての3R(リデュース・リユース・リサイクル)とは異なる。

(出所:環境省、経済産業省 近畿経済産業局の資料に基づきRidgelinez作成)
サーキュラーエコノミーが求められる背景としては、「資源制約」「環境制約」「成長機会」の3点が挙げられる。特に「資源制約」においては、世界人口が2050年に97億人まで増加(注1)することにより資源需要が増大し、調達価格が上昇し、資源調達が困難になることが予測されている。また、EUにおいては、2024年に「エコデザイン規則(ESPR)」が発効されたように、今後市場での規制が進行し、サーキュラーエコノミー非対応製品は市場から排除される可能性が考えられる(注2・3・4)。
このような制約的トレンドも重なり、日本国内におけるサーキュラーエコノミー市場は2050年には120兆円まで成長することが予測(注5)されていることから、サーキュラーエコノミーへの取り組みは、今後の事業継続・成長のためには必須であり、他社に先駆けていち早く取り組むことが、将来のビジネス拡大に向けて重要であると言えよう。
(注1)出典:国際連合広報センター「人口と開発」
(注2)出典:経済産業省「資源循環経済政策の現状と課題について」
(注3)出典:資源エネルギー庁「成長志向の資源循環経済システム「サーキュラーエコノミー」(前編)どんな課題を解決するの?」
(注4)出典:安居昭博『サーキュラーエコノミー実践 オランダに探るビジネスモデル』, 学芸出版社, 2021, p.30-33.
(注5)出典: 産業技術環境局「成長志向型の資源自律経済の確立」
求められるビジネスモデル変革
サーキュラーエコノミーでは、製品・部品・素材の価値を最大限に活用できる、資源効率性の優れたビジネスモデルが求められる。資源効率性を高めるためには、製品・部品・素材が、いつ、どこで、何に、どのように使われたのかを把握すること、いわゆるトレーサビリティの担保が重要となるが、従来の売切型のリニアエコノミーでは、製造者・事業者からユーザーにモノの所有権が移ってしまうため実現性に乏しい面があった。
トレーサビリティを担保するためには、製品の機能・価値をサービス化し、所有権を製造者・事業者が維持できるビジネスモデルへ変革することが要点となる。具体的には、製品を「使用権」としてユーザーへ提供し、一定期間使用したのちに返却してもらう仕組みを導入することで、製造者・事業者が製品の所有権を維持し続けることが可能となる。これにより、製造者・事業者が責任を持って製品の回収を行い、資源の循環を促進することができる。
また、この仕組みは「使用権」を提供している一定期間ごとに収益が発生するため、製造者・事業者には製品の定期メンテナンス、アップグレードや修理を通じて、長期利用を促進することが求められる。これは同時に、ユーザーと長期的な関係を築くことができるため、顧客ロイヤルティの向上、さらには強固な顧客基盤の構築にもつながる。
これに加え、ユーザーが同じ製品を長期間利用することにより、製品の製造頻度が低下し、原材料の消費量が抑えられることで、将来的に資源調達価格が上昇した場合の製造コスト抑制にもつながる。特に、リユース・リファービッシュ(再生)を前提とした設計と組み合わせることで、限られた資源を有効活用し、持続可能な競争力の維持・向上にも寄与すると考えられる。
さらに、ユーザーが製品を必要とするときに必要な量だけを短期間で提供できる、リアルタイムマッチング技術と組み合わせることにより、製品の稼働率を高め、ユーザー需要に対して、より少ない資源量・製品数で供給することが可能となる。
このようなビジネスモデルを実現することで、全体の資源使用効率が向上し、より持続可能な経済活動の実現につながると考えられる。
また、このようなビジネスモデルは、リース・サブスクリプションなどの非所有型サービスと情報技術をベースとしたデジタルプラットフォームを組み合わせることで実現されることから、サーキュラーエコノミーの実現においては、リース会社の重要性が増すと言えるのではないだろうか。
リニアエコノミーからサーキュラーエコノミーに向けたビジネスモデルの変革は短期に完成できるものではない。したがって、徐々により完成度の高いビジネスモデルへと発展させていくために、自社の目指す姿の解像度を上げて、そこに辿り着くためのロードマップを策定することが重要となる。(注6)
(注6)出典:梅田靖『サーキュラーエコノミー 循環経済がビジネスを変える』, 21世紀政策研究所, 2021,

先進事例
前述のとおり、サーキュラーエコノミー実現にはビジネスモデルの変革が必要となり、一朝一夕にできるものではないため、どの企業もまだ試行錯誤の段階にあると推察される。そのような状況下で、一部事業においてビジネスモデル変革に成功した事例と、サーキュラーエコノミーをビジネスチャンスと捉えて新たなサービスを創出した事例を紹介する。
事例1・事例2は、メーカーがリースを組み合わせることで付加価値を生んだケースである。事例3は、廃棄物のマッチングプラットフォームを構築したケースである。
事例1
オランダの電気関連機器メーカーであるフィリップス(Philips)では、法人顧客向けの照明器具を従来の売切型の販売方式から、使用した光量によって課金されるリース方式に移行した。リース方式によりフィリップスが製品の所有権を持ち続けるため、長期間使用できる製品を製造することによって、1台で複数のユーザーと取引することが可能になり、コストを抑えて利益を生み出せる。また、ユーザーが企業の場合は、初期投資やメンテナンス費用が大幅に抑えられることがメリットとして挙げられる。このように、フィリップスは法人顧客向け照明器具という一部事業でビジネスモデルの変革を成し遂げている。(注7)
事例2
フランスのタイヤメーカーであるミシュラン(Michelin)社では、トラックの走行距離に応じてタイヤの利用量を課金する「マイレージ・チャージプログラム」という運送会社向けのサブスクリプションモデルを打ち出した。タイヤの所有権を自社で保持することで、タイヤのメンテナンスによる長期利用の促進に加え、回収したタイヤの再生・再資源化により廃棄量を削減。これにより、廃タイヤの活用率は90%以上となった。(注8)
さらに、タイヤに取り付けられたセンサーから情報を収集して、効率的な運転方法を伝えるコンサルティング事業を進めるなど、従来のビジネスモデルにはない新たなサービスを創出している。(注7)
事例3
オランダのスタートアップ企業であるエクセス・マテリアル・エクスチェンジ(以下、EME)は、企業が処分方法に困っている廃棄物の再利用方法をアドバイスするだけでなく、廃棄物から利益を得られる仕組みとしてマッチングプラットフォームを展開。このプラットフォームでは、ブロックチェーン等の先進技術を駆使し、「素材にアイデンティティを与える」ことをコンセプトに、製品のデザイン、製造、使用・修理、リサイクルといった一連のライフサイクルにおける素材データを収集し、素材の価値を最大化できる再利用方法を提示して、その資源を再利用したい企業(マッチング先)を紹介する。(注9)
EMEはすでに、スキポール空港やフィリップス、アムステルダム市と提携を結んでいる。また、これらの取り組みは海外からも注目を集めており、マサチューセッツ工科大学によるMIT Technology ReviewやAccenture Innovations Awardsを受賞している。(注7)
事例1と事例2から、サーキュラーエコノミー実現に向けた第一歩を踏み出すためには、ターゲットを限定し、自社の強みや技術を活かせる事業に絞り込み、スモールスタートで取り組んで成功体験を創出すること、そこから得られた知見・経験を持って別事業に横展開していくことが効果的・効率的であると考えられる。
事例3では、部品や素材を再生する静脈企業(注11)と、その再生品を使う動脈企業(注12)のマッチングに着目しているが、今後は国内でも同様に静脈企業と動脈企業をつなぐマッチングサービスの提供や、そのサービスを支える部品・素材のトレーサビリティを担保するようなプラットフォームが必要となると考えられる。
(注7)出典:安居昭博『サーキュラーエコノミー実践 オランダに探るビジネスモデル』, 学芸出版社, 2021,
(注8)出典:さいたま市「SDGs経営とサーキュラーエコノミー~持続可能な社会を実現する循環~」
(注9)出典:Circular Economy Hub「ブロックチェーンとAIで廃棄物をマッチングするアムステルダムのスタートアップ「Excess Materials Exchange」」
(注10)出典:一般財団法人環境イノベーション情報機構「環境用語集」
(注11) 静脈企業:消費された製品を集めて、再加工・リサイクルなどを通じて再び社会に再投入する事業を行っている企業(注10)。例:リサイクル業者
(注12) 動脈企業:自然から採取した資源を加工して製品を生産する企業(注10)。例:メーカー
リース会社におけるビジネスモデル変革の方向性
これまで国内リース会社では、リース満了を迎えたリース物件(パソコンや複合機)を回収して整備(リファービッシュ)し、再販(リユース)する取り組みや中古機器を売買する取り組みなどに注力してきた。この取り組みは、製品を「できるだけ長く使い続け・使い倒す」ことに貢献するものの、素材レベルでの再利用といった、サーキュラーエコノミーの目指す「資源価値の最大化」においては十分とは言えない。
従来のリニアエコノミーでは、動脈企業、ユーザー、静脈企業が一方通行となっており、3者は分断される傾向にあるが、すでにモノを介して3者と関係性を構築できているリース会社においては、仲介者の立場から3者をつなげる役割を果たすことで、「資源価値の最大化」に貢献できるのではないか。以下、それぞれの視点から考えられる、リース会社のビジネスモデル変革の方向性を述べる。
対動脈企業視点:再生資材を利用する際に、その資材の品質・調達量の事前把握・担保が課題となるため、リース会社がユーザーの利用情報や静脈企業の回収・リサイクル情報を管理・蓄積し、動脈企業と連携するようなビジネスを展開することができるのではないか。また、動脈企業には、ユーザーの長期利用や無廃棄を前提とした製品設計が求められるため、製品の利用情報などを踏まえたコンサルティングという方向も考えられる。
対ユーザー視点:すべてのユーザーが製品の適切な利用方法を理解して使用しているとは言い難く、場合によっては製品寿命を縮めてしまうような使い方をしているケースも想定される。例えば、リース会社がIoTなどの技術を利用してユーザーの利用状況をモニタリングすることによって、製造者に代わり、ユーザーがより長期利用できるようにアドバイジングすることが考えられる。
対静脈企業視点:リース会社は様々なリース物件について回収・リサイクルを行ってきた知見があり、顧客や静脈企業の廃棄物管理を支援し、廃棄物の削減やリサイクル率の向上を図るためのコンサルティングやファイナンスを提供することが可能と考える。また、静脈企業が資材を再生する際の課題の1つとして、回収される製品・部品・資材のボリュームの把握が挙げられる。現状では依頼が来るまでボリュームがわからないが、リース会社が保有する製品情報やリースアップ日といった情報を提供することで、静脈企業は排出される廃棄物の種類、時期、ボリュームなどの予測をしやすくなると考えられる。
なお、先述のようなビジネスを展開するためには、3者から製品情報等を取得してトレーサビリティを担保するプラットフォームの構築・展開も併せて必要となる。

(出所:経済産業省「資源循環経済政策の現状と課題について」(令和5年9月)に基づきRidgelinez作成)
このように、サーキュラーエコノミーとリース会社の親和性は高く、リース会社にとっても新たなビジネスチャンスがあると言えよう。
ただし、リース会社のビジネスモデル変革には社内外の様々な関係者の協力を得ることが必要不可欠であり、そこに大きな障壁があるため、まずは自社ビジネスへの影響が限定される領域を特定して小さな成功体験を積みながら徐々に協力者を増やしていくことが、ビジネスモデル変革に向けたカギとなるのではないかと考える。
まとめ
ここまで述べてきたように、サーキュラーエコノミーは、バリューチェーン上に存在する様々な関係者を巻き込んでビジネスモデルを変革していく必要があるため、一足飛びに実現することは難しい。そのため、自社が最終的に目指す姿を明確にし、そこに向けたロードマップを策定したうえで、まずは自社ビジネスへの影響が限定的な領域において、既存事業資源を活用してできることから具体化し取り組んでいくことが、サーキュラーエコノミー実現の第一歩になると考える。
また、サーキュラーエコノミーの実現に向けてはSXの要素に加えて、顧客体験の変革(CX)、従業員体験や組織の変革(EX)、業務プロセスや業務運営の高度化(OX)、経営における意思決定基盤の高度化(MX)や先端テクノロジーの活用・ITガバナンスの構築(TX)といった複眼的な視点をもってトランスフォーメーションを進めていくことも重要だと考える。
Ridgelinezでは、製造業をはじめとした様々な業界への支援実績やリース会社を含む金融業界への支援実績を有するプロフェッショナルに加えて、それぞれのトランスフォーメーション領域のプロフェッショナルが数多く在籍しているため、各々の専門的知見を組み合わせながら、サーキュラーエコノミー実現に向けた支援に取り組んでいる。
さらに、ブロックチェーン技術といったプラットフォーム構築に必要なテクノロジーも有する富士通グループの総合力をフル活用して、ビジネスモデル・ロードマップの策定からシステム構築など具体施策の実行まで、End to Endでの伴走支援を提供することで、サーキュラーエコノミーの実現に貢献していきたい。