COLUMN
2024/10/04

「人的資本経営」はビジネス変革にどのように寄与していくのか(3)
―顧客起点で進化するトラスコ中山の日本的ジョブ型人事制度―

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人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、企業価値の中長期的な向上を目指す経営のあり方として注目を集めている「人的資本経営」。本コラムシリーズでは、「人的資本経営」を「ビジネス変革」の観点で捉え、企業の現状を踏まえつつ、その進め方についての指針を示したいと考えています。第1回は取り組みのポイントを再整理するとともに、ビジネス変革の推進に「人的資本経営」がどのように関わっているのかについて解説しました。

第2回以降は「人的資本経営」の先進企業が具体的にどのような取り組みを行っているのかについて、各企業のキーパーソンに伺います。今回お話を伺うのは、日本のものづくり企業を支える卸売業トラスコ中山で時代に合わせた変革を推進された元人事部長 喜多智弥氏です。

トラスコ中山はものづくり現場で必要とされるプロツールの卸売を生業とし、創業当時から一貫して「在庫を多く持つ経営」といった顧客起点での価値提供を強みに成長してきました。その事業成長の過程で、各制度を通じて創業当時の想いを組織・社員に根づかせ、受け継いできたストーリー性を持つ企業です。コロナ禍で企業のあり方や働く人々の仕事に対する価値観が大きく変化する中で、トラスコ中山は創業当時の企業理念と人事制度を結びつけ、社員の自発的なキャリア形成を促す取り組みを展開してきました。

今回は、喜多氏の人事部長時代のお考えと、現場部門に移られた今、改めて感じる人事制度の企画・運営の重要性について、Ridgelinezの執行役員Partner石田秀樹、Director田中浩基が伺いました。インタビューを通して、「顧客起点の理念と従業員の多様な価値観を取り込んだ人事制度」について、人事・事業部双方の視点から明らかにします。

人事制度の企画における”顧客起点”の重要性

―トラスコ中山に根づく創業当時からの想い

田中 このコラムシリーズでは、人的資本経営の取り組みには次の5つのポイントがあるのではないかという仮説を立てています。

(1)事業戦略と人事戦略の連携
(2)将来像の具体化とKPI設定
(3)As-Isの棚卸とTo-Beとのギャップの特定
(4)投資家への説明ストーリー
(5)舵取りのためのHRシステム整備

【図1】人的資本経営の取り組みの5つのポイント

トラスコ中山にも、事業戦略を達成させるための人事戦略・制度があると考えています。それらを検討するうえで、人財や組織文化の特性をどのように踏まえてきたかを教えてください。

喜多 私たちトラスコ中山は日本のものづくり企業を応援し、人や社会のお役に立つことを志している企業です。創業当時からプロツールの「在庫を持つ」卸売業として、ものづくりの現場に「必要なモノを、必要なときに、必要なだけ」供給することを心掛けてきました。その体制を構築するべく、現在では、日本全国に28か所の物流センターを置き、全体で約59万アイテムのプロツール在庫を抱え、“お客様のニーズ”にお応えしています。
今回のテーマである人事・人財を語るうえで前提となるトラスコ中山の特徴をお伝えしますと、弊社には人事異動により、様々な業務を通じて“お客様のニーズ”に応えることを学ぶ文化があります。1年目の社員は弊社の根幹業務となる物流センターへ配属され、物流の勘所や業務を理解してもらう、といったことを意識的に行っています。

喜多 智弥氏
トラスコ中山株式会社
物流本部物流部東日本部長(前 経営管理本部 人事部 部長)
2001年大学卒業後、同社に入社。営業部門の支店長、物流部門のセンター長を経て、2019年1月より人材開発課 兼 秘書課 兼 CSR課長となり、2021年より採用課長も兼務。2022年1月より人事部 部長となり、人事課、HRサポート課、採用課、人材開発課、ヘルスケア課など5つの部署を配下に持ち、人事制度改革を推進。2024年より物流本部物流部東日本部長としてトラスコ中山の根幹業務に取り組む。

田中 まず現場を知ることは大切ですよね。

喜多 そのとおりです。2年目については、支店へ異動することになります。私たちは営業会社なので、後にコーポレート部門へ配属されたとしても、「顧客のために働く」ということを若い時に内面化してほしいという想いがあり、まずは物流と営業を通して、プロツールを提供しているお客様を理解できるよう人事制度を構築しています。

例えば、私は新卒で入社して24年になりますが、人事異動で10か所の部門を経験しています。異動により、新たな業務に携わることで初めて面白さが見えてくることもあります。例えば、物流業務を経験する前は面白さを理解できなかったのですが、物流のセンター長を任されて初めて、営業支店長との違いをマネジメントの観点から理解できた部分があります。こうした違いや新しい気づきに対し、面白さを感じる人が多いのだと思います。

―顧客起点の考えがあるからこそ頻繁な人事異動が可能―

田中 なぜ、顧客価値を維持し社員が業務に順応できるのでしょうか?

喜多 組織として約5年周期で人事異動があり、社員は様々な業務を通して成長します。また、徹底して“お客様のニーズ”に応えることを考えており、それはどの部署であろうと違いはありません。
「ものづくりを通じて日本の世の中に貢献したい」という創業当時からの想いが徹底されていると思います。そのため、どの部署に異動したとしても、共通のビジョンを持って仕事に取り組むため、柔軟な対応が可能だと考えています。
例えば、私が人事部長のときに、別会社様に向けたトラスコ中山の講演と講演内容に基づくワークショップを実施したことがあります。その際、参加者がコメントで「トラスコ中山は、モノづくり企業に特化したビジネスを展開しているため、人事異動で部署が変わっても、顧客像がぶれることがなく、社員が一貫した姿勢で顧客に向き合えるのではないか」というコメントを頂きました。実際、どこの部署に行っても、前提として「日本のものづくりをどうやったら応援できるか」「“我々のお客様”のニーズに応えるにはどうすればよいか」ということを各社員が徹底して考え抜いている。その根幹があるからこそ人事異動が上手く機能している側面もあるのではないかと改めて考えました。

―顧客起点で考える人事制度―

田中 人事異動が創業当時からの企業理念と密接に結びついているからこそ、業務に柔軟に対応することができるのですね。他方で、新規の人事制度策定の場合も、顧客起点で制度を検討するのでしょうか。

喜多 もちろんです。私たちは顧客起点で考えたうえで、社員に制度を伝える仕組み・仕掛けを考えてきました。私は着任して最初に「オープンポジション」という制度を導入したのですが、これまで部署異動は約5年周期が多く、社員が異動先を選ぶことはできませんでした。

石田 異動先が分からない場合、社員1人ひとりがキャリアを見据えて学習することが難しいですよね。

喜多 はい。会社主導の人事異動でも、社員が様々な業務を通して成長することは確かです。これに対して、「オープンポジション」という制度は自ら異動希望先を指定できるという制度ですので、社員へのインパクトは大きかったと思います。しかし、「オープンポジション」も、“お客様のニーズ”に応えるという根幹と、異動を通じた成長の実現という狙いは変わりません。そのため、社員の異動希望が実現したとしても、未来永劫、その部署に所属となる制度ではなく、社員には、そのときのやりたいことを実現してもらい、トラスコ中山に還元してもらう。ゆくゆくは“お客様のニーズ”に応えることにつなげるという考え方になります。

企業理念に基づき最適化された人事制度から見えてきた課題

―創業時の企業理念と社会状況を踏まえた人事制度の検討―

田中 人事制度を導入する際は社内文化だけでなく、世の中の状況や人材マネジメントの潮流も踏まえる必要があると思います。「オープンポジション」制度導入の経緯を教えてください。

喜多 私が人事部に着任したときは、コロナ禍の最中でした。若い社員の価値観も変わっていく中、人事異動だけでは社員の士気やキャリア形成の意識を高めることに限界があると感じていたのも事実です。昨今、「自分自身の想いを形にできる仕事が良い」という考えを持つ若い方々が増えてきたと感じます。実際に、若い社員に話を聞くと、「取り組んでみたい業務はあるが、希望部署への異動が叶うか分からない」という不安を打ち明けてくれました。これまでは原則として、全国転勤可能、様々な業務にチャレンジしたいと考えている方を大卒で採用してきましたが、一方で、「異動を前提にしているため、自分のキャリア形成を考えた際、何を学び、身に着けるべきかわからない」という声も社内から出ていたわけです。

世代によって仕事に求める価値観が変わっていくのは確かであり、このままでは「採用面接に応募者が集まらない」、「若い社員が離職する」という懸念もあります。新型コロナウィルスが蔓延して以降、離職率が3%程度から5%に上昇したことで、社内で心配の声が上がりました。

―人事部から現場部門へ異動したことで見えてきた課題―

田中 喜多様は、半年前に人事部から物流部門へ異動されましたが、これまで展開してきた制度は現場に根づいていると感じますか。現場で人事制度を見て感じたGAPがあれば教えていただきたいです。

喜多 端的に言えば、制度を通して会社の想い、人事部門の想いは現場へ完全には伝わっていなかったと思います。1つの例ですが、自分の評価の決まり方を知らない社員や、年功序列で評価・処遇を受けるだろうと勘違いしている若い社員がいました。物流はハードワークであるため、社員1人ひとりがしっかりと会社の制度を理解する時間を捻出することが難しく、考える機会がない状況を作り出してしまっているのも事実だと思います。

また、私が人事部長を経験していることを知っている身近な社員から、制度に関する質問を現場で受けることがあり、人事が現場へ行くことも重要だと改めて感じました。

田中 現場で社員の方から質問を受けて気がつく課題もあるかと思います。

喜多 私は人事部から東日本物流部に異動しましたから、東日本物流部の社員に制度を説明することはできますが、西日本物流部の社員には伝えられない歯がゆさがあります。課題とまでは言わなくても、接点がなく、致し方ない部分をどうするか、という点に対し、私はそれぞれの上長が教育を行うことが重要だと考えます。

石田 上長に人財マネジメントの責任があるということでしょうか。

喜多 そうですね。ハードワークではありますが、上長が制度の意図や背景を理解して意識高く行動すれば、組織は変わると考えています。ただし、「会社に対して忠誠を誓え」という話をしているわけではありません。トラスコ中山で働く以上、トップの考えや組織の想いを理解することで、社員から多くの意見が挙がり、組織の循環につながると思っています。

石田 秀樹
Ridgelinez株式会社
執行役員 Partner
People&Organization Transformation Practice Leader
金融・製造・通信・ハイテクの各業界を中心とした20年以上のコンサルティング経験に基づいた「人起点」の実践的な変革支援を得意とする。事業戦略策定、人財戦略策定(人的資本経営の実践)、組織構造変革(DX推進組織設計・グループガバナンス)、人事機能変革、Employee Experience視点でのワークスタイル変革、人事基幹システム構築、組織風土変革、リスキリング実行支援、People Analytics(人財情報分析による変革アプローチ)等の支援を数多く手掛けた経験を有する。

社員が求める情報を具備した人事制度によるキャリア形成推進

―社員のキャリア形成に向けた業務情報の重要性―

田中 新たな「オープンポジション」制度はどのように受け入れられたのでしょうか。運用面やコミュニケーション等でどのような工夫をされましたか。

喜多 これまでの人事異動制度だけでは限界があったことは確かです。そこで、社員1人ひとりにトラスコ中山での人生をどう築くか考えてもらうことを目的に「キャリアcompass」というガイドブックを作成しました。新しい人事制度と併せて、部門・職種の具体的なイメージを持ってもらおうと考えたのです。

田中 リアルな業務イメージを持てるキャリア形成のガイドブックということですね。社員の皆さんからは実際どのように受け入れられたのでしょうか。

喜多 「キャリアcompass」は、部署単位の業務や実際にその部署で働くために必要なスキルのイメージが湧かない、という社員の声をきっかけに生まれました。ガイドブックには、各部署の業務イメージが記載されており、想像しやすいよう社員をデフォルメした絵も掲載しています。社員がトラスコ中山でどういう仕事を通じて人生を冒険するのかを考えるためのツールになっています。

石田 トラスコ中山の仕事にはこういう業務もあるのだと理解できる良い仕掛けですよね。
特に、「この部門はお客様に対して何をする部門なのか」というお客様を意識した説明や、その部署の「先輩社員からのメッセージ」はとても良い内容だと思います。

喜多 全社員に配布していますが、意欲的な社員ほど読み込んでいます。「キャリアcompass」を用いてトラスコ中山の業務を明示しましたが、「オープンポジション」制度を社員に強要しているわけではありません。制度の趣旨は、ポジションに対して熱意がある社員を見つけたいということであり、正しく理解してもらうよう、人事部が丁寧に説明を続けています。また、先輩社員のメッセージは、その部門の一般社員の声が掲載されています。このメッセージを見て、該当する部署の社員と話したいという声も実際に現場から出ています。

石田 仕事に対する向き合い方を変えるための良い事例ですね。「キャリアcompass」を見ることで具体的なキャリアが想起され、自分自身の未来を見通せることで、不安を払拭しやすくなったと思います。

喜多 人事異動を通して“お客様のニーズ”を把握するという方針が根底にあるものの、いつどこに異動を命じられるかわからないと、自分のキャリアを見通せない不安はあったと思います。「オープンポジション」はそういった不安解消に役立つと思いますが、都度、募集しているわけではありません。特定の部署の人員が経営の観点から新規で募集するパターンや、社員都合の退職等で充足要望が出た際に募集をかけるパターンがあります。しかし、「オープンポジション」制度があることで、特定部署の人員に空きが生じる可能性があるという見通しが立つことで、キャリアの可能性が切り開かれたと考えています。「オープンポジション」、「キャリアCompass」のような取り組みを組み合わせることで、従業員のキャリアに対する不安を払拭したり、自律的なキャリア形成の後押しができたりすると考えています。

社員のキャリア自律を通じた組織パフォーマンスの活性化

―キャリアcompass作成による副次的な効果―

田中 「キャリアcompass」が「オープンポジション」制度の重要な要素であると同時に、社員が業務を知り、キャリアを描くための要素になっているのは間違いないと思います。「キャリアcompass」は人事主導で作成されたのでしょうか。

喜多 はい。人事部主導ですべての部・課の上長に声掛けして、半年ほどの期間を費やし、作成しました。ジョブ・ディスクリプションを定義しているわけではなく、部署・課の中で様々な業務を行ううえで役立つガイドブックを目指しました。

田中 実際に我々のお客様でも、ジョブ型を検討した際、「業務レベルでの棚卸やジョブの要件を誰が都度更新し、鮮度を保つのか」という点で悩まれることがあります。
ジョブ型でなくとも、提供価値や業務を棚卸し、更新を掛けることで、自身の仕事のアップデートにもなると考えます。

田中 浩基
Ridgelinez株式会社
Director
外資系企業での人事・人材・ITコンサルティング経験を基に、業界を問わず、人事・人材領域のテクノロジー活用による全社レベルの変革を得意とする。
人事デジタル変革(AI, SaaS)、People Analytics(データ分析に基づく意思決定の促進)、デジタル人材戦略策定と実行、社員エンゲージメントの可視化と施策定着化、等の支援や新規サービス開発を数多く手がけた経験を持つ。

喜多 人事部がすべての部・課にインタビューした際、上長の皆さんは、日ごろ自分自身の業務を棚卸しする機会がないこともあり、驚きつつも快く引き受けてくれました。彼らのほとんどが、「うちの部署に来てほしい」と話してくれたことがとても印象的で、トラスコ中山の社員らしさを感じました。また、「キャリアcompass」を作成する過程では、掲載内容の検討に苦戦したという声もありましたが、それぞれの上長が自分の部署に愛着を持っていることも垣間見ることができ、良かったと思います。

―人事制度を通じた社員の行動変容―

石田 「キャリアcompass」や「オープンポジション」の前提にあるのは、常にお客様を意識する仕組みがあること、また、社員1人ひとりがキャリアの中で、「どこでお客様にバリューを出すか」を考える仕組みになっていることだと考えます。

喜多 「オープンポジション」制度は入社2、3年目でも応募可能な制度です。いざ開始すると、応募が多かったのは若手社員でした。制度上、必ず人事部長や募集先部署の上長と面談するのですが、「今回の面談では希望は通らないかもしれないが、意思表示をしたい。将来的に希望部署への配属を実現するため、私自身の立ち位置や、至らない点を直接上長に聞きたい」という主張が若手に多かったことに驚きました。
将来を考え、その部署から再度募集が掛かった際に希望を通したいという主張は人事部としても刺激的でした。

石田 制度を通して社員の行動変容が起きているのではないでしょうか。

喜多 はい。今まで人事部が持つ情報は限られており、どの社員が何をやりたいと考えているのかということは把握できず、異動の判断情報は人事考課程度でした。今では、突発的な人員補充などの場合でも、「オープンポジション」で希望を出していた実績などを踏まえ、希望部署へ異動させることもできます。この場合、本人の希望が叶う人事異動であるため、社員はモチベーションが高く、主体的に学習するというプラス面も見られました。

田中 希望を出すという積極的な行動が結果として報われる。そういうサイクルが当たり前になると、組織の好循環が生まれると考えます。

―揺るがない企業理念に根差す最適化された人事制度―

石田 トラスコ中山には様々な制度がありますが、どれも一貫して「顧客視点」という企業理念に基づき作られたものだと思います。お客様のものづくりにどう貢献できるか、そのために自分はどう成長すべきかを社員が自律的に考えるために、自発的に異動を希望できる「オープンポジション」やお客様に何をする部門なのかをガイドした「キャリアcompass」は大変有効だと感じます。「現状維持で良いのか、もっと工夫できることがあるはずだ」と新たな挑戦意欲を持たせ、行動変容につながっている。つまり、社員を巻き込みながら、仕事のやりがいを再認識させ、顧客へ還元することができる取り組みなのではないかと思います。トラスコ中山には様々な制度がありますが、どれも一貫して「顧客視点」という企業理念に基づき作られたものだと思います。お客様のものづくりにどう貢献できるか、そのために自分はどう成長すべきかを社員が自律的に考えるために、自発的に異動を希望できる「オープンポジション」やお客様に何をする部門なのかをガイドした「キャリアcompass」は大変有効だと感じます。「現状維持で良いのか、もっと工夫できることがあるはずだ」と新たな挑戦意欲を持たせ、行動変容につながっている。つまり、社員を巻き込みながら、仕事のやりがいを再認識させ、顧客へ還元することができる取り組みなのではないかと思います。

喜多  振り返ると、他社交流という機会があったことが、今回ご紹介した人事制度や、今の仕事に大いに生きていると感じています。他社を知ることで、ポジティブな面もネガティブな面も含めより深くトラスコ中山の良さやストーリーを理解できる。そうすることで、お客様に対してより貢献できることは何か、と常に考え行動することができるという側面もあると思います。そういう意味では、「知る」機会を人事がいかに作るか、ということも従業員の行動変容を促すうえで重要だと考えます。
人的資本経営は事業戦略と人財戦略を連動させなければならない。トラスコ中山の取り組みでは、人事制度の中に答えがあるわけではなく、知るという機会を提供することで社員が探求して「自分がどうありたいのか」を考えるように働きかけているのが良いと考えます。ともすると、人事部は制度として“正解・公平性・正確性”を求めます。確かに大事な要素ではありますが、社員の1人ひとりへ行動変容を促すために手触り感も大事にしていると感じました。
社長の中山は何でも自前主義だと言っており、社員も約95%がプロパー社員です。他社を知る機会はまだまだ少ないですが、志を大事にするという考え方で社員を育てていく文化は人が育ちやすいと考えています。その中で生まれたのが時代背景を踏まえた「オープンポジション」と、制度を促進させるための「キャリアcompass」でした。

石田 トラスコ中山はストーリーを持っているため、「キャリアcompass」それ自体が“お客様のニーズ”に応える視点を養う人事異動に対するガイドブックのような位置づけとも言えるかもしれませんね。

喜多 弊社の大前提は“お客様のニーズ”に応えることです。そして、「“誰かのために働く”ということを大事にして欲しい」という想いは変えずに人事異動を実施しています。それは新しい制度を取り入れても変わらず、大切にしている弊社の志です。

田中 本日はトラスコ中山を深く知る貴重な機会となりました。ありがとうございます。

本インタビューから得られた示唆

今回の対談では、トラスコ中山における顧客起点で実施している人事制度について深く掘り下げました。創業当時からの経営理念に基づき、人事異動を通じて社員が多様な業務を経験し、お客様のニーズに応える力を養う仕組みが特徴と言えます。また、新たに導入された「オープンポジション」制度や「キャリアcompass」ガイドブックの取り組みは、社員のキャリア形成を支援し、組織全体のパフォーマンス向上に寄与しています。これらの制度は、社員1人ひとりが自らのキャリアを見つめ直し、主体的に行動することを促すものであり、企業の持続的成長を支える重要な要素となっています。既存の人事異動の考えを踏まえ、新たな人事制度を模索したトラスコ中山の取り組みは、企業理念と事業戦略、そして人事制度がいかに連携し、社員の成長と企業の発展を両立させるかを示す好例と言えるでしょう。

対談者

  • 喜多 智弥 氏

    トラスコ中山株式会社
    物流本部物流部東日本部長

  • 石田 秀樹

    執行役員 Partner

    People&Organization Transformation Practice Leader

  • 田中 浩基

    Ridgelinez株式会社
    Director

※所属・役職は掲載時点のものです。

執筆者

  • 佐藤 健太

    Senior Consultant

※所属・役職は掲載時点のものです。

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