COLUMN
2024/07/25

MDM推進に必須の費用対効果と投資計画の考え方とは―予算化でつまずかない構想策定のポイント―

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企業のDXの取り組みの契機は2つある。「基幹系刷新(モダナイゼーション)」と「データ活用基盤導入」だ。どちらも始めた途端、「データ」が大問題になる。

「基幹系刷新」はOneERPなどで企業全体の基幹系業務を統合する。当然、事業所や部門ごとに異なるコード体系が最初の障壁になる。これによる失敗事例は多く、プロジェクトの頓挫や延伸はもちろん、無理して進めても効果が得られず、問題となるケースもある。

「データ活用基盤導入」では、基盤構築まではよいが、肝心のデータを載せて使おうとすると問題が起こる。部門横串でのデータ分析をしようにも、部門によって扱う情報の単位が異なるためにデータがつながらず、使うことができない。せめてマスタだけでも揃えておかないと、活用が進まない。

これらの解決にはマスタデータマネジメント(MDM)が必要であり、部門をまたがって新しい価値を創出するDX活動には必須の取り組みである。ところが、その必要性を頭ではわかっていても実際に始められないことが多い。最初の障壁は、「予算化」である。

Ridgelinezは、DXの最初の一歩となるMDM活動が「予算化」でつまずかないために、①費用対効果 ②投資計画 の2つの面から、対策を提示する。

※この記事は、2022年~2023年に開催されたNTTコム オンライン・マーケティング・ソリューション株式会社主催セミナー「MDM推進プロジェクトを阻む「2つの壁」と「解決策」 ―予算化と実現のために考えておくべきこと―」での講演に基づき作成したものです。

図1:DXの2大取り組みにMDMが必須な理由

予算化でつまずかないために ①費用対効果

「なぜそこまでお金がかかるの?」MDMを始めようと企画書を提出すると、最初に言われる言葉である。まず、これを考えてみよう。

この言葉のウラにあるのは、関連部門が多く、時間もかかる「内部コストへの不満」、関連システムが多いことで起こる「システムコストへの不満」、効果に対して費用が高く感じる「漠然とした不満」である。このうち根源的なのは、3つ目の効果に対して費用が高く感じる、「漠然とした不満」であり、他の2つもここに行き着くことが多い。では、これは一体どういうことなのか。

この反応には2つの背景がある。まず、費用ではなく「効果」に納得していないのである。事業部門としては何の問題も起きていないため、マスタを変える直接的なメリットはない。それなのに、積極的な協力を求められるのは不満につながる。次に、費用対効果の「証明」ができないことがある。データがIT部門のものだと考える人にとっては、ITとは業務効率化の効果を享受するためのものであって、明確な効果が得られない投資はあり得ない。

この2つの反応に対しては、次のようなアプローチが有効である。

「効果」については、まず、MDMとは経営の意思で行うガバナンスの手段であることを説明する。どこかの事業部門やIT部門のためにMDMを実施するのではなく、部門をまたがるDXの取り組みを実現するために、ヒト・モノ・カネ・情報という経営資源のガバナンスが必要だから行うのだ。そもそもコードやマスタが事業部門ごとにバラバラなのは、それぞれに理由がある。それを超えて統制をするため、事業部門から不満が出たり、費用がかかったりするのは当然であり、それを押して行うのは経営の意思なくしてはできない。現場部門が効果を感じることを優先するべきではない。

「証明」については、MDMの効果は全体最適であることを説明する。全体最適の効果には、「効率化」と「新規事業施策の実現」の2つの面がある。全社横断の効率化は各事業部門には実感されないことが多く、直接的な恩恵を受けるのは経営層だけかもしれない。また、新規事業施策の実現への貢献は、効率化とは違い、証明することはできない。さらに、MDMは単体で効果を出すものではなく、全体最適施策の実現手段の一部として評価するべきである。

予算化でつまずかないために ②投資計画

MDMはそれなりに費用がかかるが、初めから大規模投資を計画するのはDX時代には合わない。DXは取り組みを素早く繰り返し、変更しながら前進する。MDMも最後まで効果の見えない進め方ではなく、小さく始めて途中で方針変更できる、素早く作って活動や成果を共有する進め方が重要である。

MDMが大規模投資になる理由は主に2つある。それぞれについて、アジャイルアプローチで解決法を考えてみる。

1つ目の理由は、「全部やらなくてはいけない」ためである。マスタはほとんどすべての業務/システムに影響するため、すべての業務とシステムの改修が必要になる。この問題に対する解決アプローチは、影響範囲を小さくして始めることである。DX施策のロードマップに合わせて、早急にマスタやコードを変更する業務と、当面、従来の運用をする業務に仕分ける、対応が明確なら旧マスタとの読み替えをしてくれるツールを選ぶ、などの施策で初期投資を抑えることができる。

もう1つは、「複雑な業務をそのままシステム化」してしまっていることに起因する。過去の慣習による特別対応や承認ルール、数十年前に設定したコード体系の桁あふれによる複雑な読み替えルールなどが要因である。これに対しては、業務プロセスをシンプルにする、個別運用ルールは既存のシステム内に閉じた運用にする、桁に意味を持たせないコード体系に変更する、などの施策でシステム開発量を減らす。

これらを踏まえて、投資計画立案は「全体構想+クイックヒット施策」の二段構えで計画するのがポイントである。DX全体計画に合わせた全体構想(最終形)と段階的なロードマップに加えて、小さいが素早く効果の出る施策(クイックヒット)を設定し、活動や効果の見える化を行うのがポイントである。

数十年かけてバラバラになってきたマスタを統合するのは容易ではなく、時間と費用がかかるのは当然である。しかし、DXの実現に向けてMDMは重要なキーである。今回述べたように、「初期投資を可能な限り圧縮し、少しずつ拡張する」、「素早く作り、途中の成果を見せることで関係者の理解と協力を得る」という2つのアプローチにより、最初につまずくことなく、最後まで完遂し、成功を得ることができる。

解決アプローチのまとめと事例

冒頭で述べた基幹系刷新とデータ活用基盤の導入、それぞれのケースによって、解決したい問題や構想立案・予算化で直面する問題の現れ方は異なるが、解決アプローチは同じである。図2に示すように、基幹系刷新では、情報が地域や部門ごとに複数システムに散在する、利活用基盤構築では、局所的なDWHやBIツールが散在してコントロールできない、というように問題は異なるものの、解決のアプローチは同じく「スモールスタート」、「切り出せるようにする」、「ガバナンスとして行う」の3点である。

図2:解決アプローチ

最後に、Ridgelinezがご支援した事例についてご紹介したい。

ある製造業では、まさにこの問題に直面し、プロジェクトが長期化し、皮肉にも費用が増大しつつあった。Ridgelinezでは図3に示すように、ソリューションの価値は登録業務の効率化ではなく中長期視野でのガバナンスツールであること、特定部門の利益のためでないことに立ち返り、効果の高いところから着手して拡大する方針とすること、という発想の転換をリードし、プロジェクトを前進させた。

図3:DXの一環でMDMに取り組んだが、企画段階でダッチロールした製造業の事例

MDMは技術課題と捉えられることが多いが、間違いなく事業課題である。そして、これを経営課題と捉える企業がMDMに成功している。このため、予算確保はほとんどすべての企業で問題になると言ってよい。2011年がMDM元年と言われてから約10年は大企業の問題とみなされてきたが、近年は、DX推進の要として中堅企業にまでMDMの取り組みが拡がり、予算確保とそのために小さく始める道筋を示すことは、もはや至上命題である。

Ridgelinezはこの問題に早くから解決アプローチを発信し、産官学が参加するデータマネジメントの業界団体でも活動をリードしている。みなさまの課題解決を広くご支援していきたい。

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執筆者

  • 林 惠美子

    Director

※所属・役職は掲載時点のものです。

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