企業のDX実現を加速させるためのデータマネジメント推進のポイントとは
近年、多くの企業でデータドリブン経営が盛んに叫ばれている。しかし、ビジネス成果に至るまでの超えるべきハードルはまだまだ多いのが現状だ。特にビジネスプロセスへのデータ分析のフィードバックは重要であり、その方法の如何によって、得られる効果には大きな差が生じている。その差を生み出すのはデータの創成から活用までのトータルなデータマネジメントだ。
RidgelinezはIT部門とともに企業のDXを支援する伴走者として、データドリブン経営を実現するデータマネジメント活動の方向性を提示する。
※こちらの記事は、2023年3月9日に開催された「データマネジメント2023」のセッションでの講演に基づき「IT leaders 2023/04/19」に掲載されたものです。
本記事は、IT leadersインプレス社の許諾を得て掲載しています。 なお、所属・役職は掲載時点のものです。
訪問販売の成果向上を実現するデータ活用とは?
データ活用は手段であり、ビジネス上の成果にまで至らせるためには、「データ基盤」「データ」「業務プロセス」の3つの要件を互いに掛け合わせることが重要となる。
Ridgelinezの執行役員Partner, Architecture & Integration Practice Leader である岩本昌己氏は、「データマネジメントとは、データをビジネスに活かすことのできる状態を継続的に維持し、進化させていくための全社、部門による組織的な営みです」と強調、そのためには図1に示す取り組みを推進する必要があると訴える。
岩本氏は、データの利活用によって営業活動のDXを実現した事例を挙げながら、データマネジメントへのニーズについて解説を行った。
訪問販売の売上を向上させるためには、どのようなデータ活用が有効となるのか。一般に訪問販売で商品を購入してもらうためには、玄関を開けてもらい、リビングに通してもらった後に商品説明を聞いてもらうなど、多くのステップが存在する。また、商品を購入してもらうためには、商品以上に営業員に信頼や興味を持ってもらわなければならない。
では、成績優秀な営業員は、どのようなトークやコミュニケーションのパターンを駆使して顧客からの信頼を醸成しているのか。優秀な営業員と、そうでない営業員とのトークの差を解析したところ、前者には非常に特徴的な言い回しやトークの進め方があることが分かった。営業変革には、そのノウハウをナレッジ化することが必要となる。
営業員の顧客への一連の応対について、SFAを用いて訪問日時や商談のステップ、進捗状況などを記録、データ化して管理している企業は多いだろう。しかし、SFAではそういった構造化データが主に記録・管理されており、優秀な営業員がどのような挨拶やトークをしているかについてはデータ化できていないのが実情だ。営業員の日頃の行動はSFAに蓄積されているが、営業活動における知見の半分以上は属人化している。そこで、優秀な先輩や営業員の知見を加え、ノウハウとして営業員に共有データとして民主化させることが必要となる(図2)。
かつて岩本氏がコンサルティングした企業は、営業トークのデータ化に向けて2つのトライアルを実施したが、明確なROI、持続性が担保できずに頓挫したという。「1つは、営業日報へのトーク内容記録の義務化です。多大な時間を要するにもかかわらず企業にとってのROIが明確にならなかったほか、営業員に対してもインセンティブが提示できず、うまくいきませんでした」と岩本氏は説明する。
次に、優秀な営業員へ若手を同行させトーク内容を記録させ、これをデータベース化したが、この取り組みもつまずいたという。「このようなデータの利活用が効果を表し始めるには、一定のリードタイムが必要となります。データを蓄積したからといって、すぐに業績が上がることは基本的にあり得ません。結果、明確なROIが担保できずに頓挫しました」(岩本氏)。
データマネジメントの既成概念を突破する
「営業変革を実現するためにはデータの収集・蓄積の課題解決が必須であり、データマネジメントの既成概念を突破しなければなりません」と訴える岩本氏は、3つの事項にフォーカスして改善することで一定の効果を上げることができたという(図3)。
1つ目は「活きたVoC(Voice of Customer)」の収集である。「基本的に顧客の了承をいただいたうえで、レコーダーに顧客との会話履歴をすべて録音し、これをリアルタイムにデータレイクに蓄積するようなデータマネジメントを行うことにしました。常に自動的、あるいは能動的にデータを解析できる環境を整備することから開始したのです」と岩本氏は説明する。
2つ目は「非構造化データを価値に変える」という観点から、テキスト化されたVoCデータをAIの活用によって営業員が共有するナレッジへと変えていく取り組みの推進。これにより、単なる履歴データを価値化していった。
3つ目が「発想を遮断しないガバナンスの適用」である。「ガバナンスは必ずしも規制をかけることではありません。リスクヘッジして使わせない統制からリスクテイクして使わせる統制への変革をデータマネジメントの重要なミッションとして捉え、データを利用する人の発想を遮断しないガバナンスと、その統制下にあるデータマネジメントの仕組みを作っていきました」(岩本氏)。
データマネジメントに求められる4つの活動
近年、データドリブン経営などが盛んに語られるようになっており、営業員のマインドセットや仕事のやり方を変えるだけでは大きな営業変革に繋がらないことが認識されはじめている。データを活用した営業変革が必要不可欠であり、データマネジメントはDX推進のための大きなキーポイントになっている。
そして、データ基盤導入からデータ活用を拡大させるまでには、図4に示す4つのデータマネジメント活動が必要となる。
また、データマネジメントといった場合、中央にエンタープライズのデータ基盤を構え、ここに集められたデータを社員が使えるように民主化するのが一般的な考え方であると思われる。「このような“中央集権”の構造に対して、データの活用は部門ごとの”地方自治“であると考えられます」と岩本氏は強調する。
「自分自身の経験からすれば、地方自治側からデータ活用に対するニーズが寄せられ、それに適合した中央集権を推進していくことが重要となります。つまり、収集されたデータを中央側がどのようにして分配し、どのような粒度や鮮度で管理していくことが地方自治側にとってベストなのか、といった意識のコンセンサスが取れており、かつ、絶妙に組み合わされることがDXを加速させます」(岩本氏)。
なお、1つのデータに対しても、部門ごとに捉え方は異なっているため、「部門固有のデータへのニーズを集約しながらも固有ニーズの最大公約数を把握したうえで、データ活用基盤を構築していくことが重要になります」と岩本氏は補足する。
最後に岩本氏は、データマネジメントがDXの要となる3つの理由について総括した。
1つ目が「柔軟なデータ利活用環境」を実現することだ。ビジネスの多様化に伴いデータの利活用も多様化している中、データマネジメントの推進により変化への柔軟性を確保できるようになる。
2つ目は「多種・多様・大量なデータ」を取り扱えること。IoTやAIなどによって、バリエーションが大幅に増えたデータを、データマネジメントはいつでも利用可能な状態にすることができる。
そして3つ目が、「データガバナンスの変化」への対応だ。データマネジメントは、これまではデータの利活用に制限を施すことが中心だったデータガバナンスから、利用者の発想を遮断しないデータガバナンスに変化させられる。
「これらの3つのポイントに基づき、データマネジメントはデータ利活用に寄与できるような形に、大きな変化を遂げています」と岩本氏は強調し、セッションを締めくくった。
本講演のアーカイブ動画はこちらに掲載しております。