COLUMN
2025/01/23

システムモダナイゼーションの成功の鍵を握る「データ連携」の革新
―そのコストや複雑さを最新技術で解決する―

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システムのモダナイゼーションは企業の成長に不可欠であり、繰り返しモダナイゼーションを推進する過程で避けて通れないのがデータ連携の見直しである。表面上は見えにくいものの、モダナイゼーションにおけるデータ連携は、膨大な数のデータフローとその複雑性によってコストや労力を押し上げる要因となっている。現状、企業はこの「見えないコスト」に悩まされており、増え続けるコストはモダナイゼーション全体のパフォーマンスを将来にわたって悪化させる。これまで企業は、地道な調査と再設計、改修とテストにより、この問題に対処してきた。しかし、最新技術を駆使することで、格段に省力化できる。本コラムでは、その考え方と効果について解説する。

※この記事は、2023年に開催されたNTTコム オンライン・マーケティング・ソリューション株式会社主催セミナー「DXに向けたモダナイゼーションを加速する「データ仮想化」―レガシー資産もそのまま連携、足かせをなくす方法―」での講演に基づき作成したものです。

モダナイゼーションにおけるデータ連携の課題

現代の企業に導入されている財務管理や販売管理などの多様な業務システムは、企業活動を支えるうえで重要な役割を果たしています。これらのシステムは企業が置かれるビジネス状況により定期的な更新が必要となるため、企業内ではその規模に応じてシステムモダナイゼーションが行われています。また、新市場への参入や新製品の開発などの取り組みに向けては、新たなシステムの導入を伴うモダナイゼーションが必要となっています。

このように、システムモダナイゼーションは企業活動において重要性を増しています。なお、システムモダナイゼーションは技術の進化、ビジネス環境の変化、技術的負債の管理、セキュリティ要件の変化などにより実施する必要がありますが、一度にすべてのシステムを刷新することは現実的でなく、部分的なモダナイゼーションを計画的に繰り返す方法が一般的です。昨今のビジネス環境の目まぐるしい変化を鑑みると、システムのモダナイゼーションは延々と続く状況にある、と言っても過言ではありません。

システムモダナイゼーションは、対象となる老朽化したシステムを最新技術に置き換え、現在のビジネスニーズに合わせたシステムに最適化することが主たる活動ですが、対象システムが入れ替わることで、その周辺システムにも影響が及びます。そして、この影響を必ず受けるのがデータ連携です。システムのモダナイゼーションでは、システム間をつなぐデータ連携に関して必ず見直しを行う必要があり、避けて通れません。筆者が担当したあるシステムにおいては、データフローが2000を超えており、その評価・検証は容易ではありませんでした。

昨今のシステムモダナイゼーションは、現行のシステムの大部分をパッケージやサービスで置き換え、Fit to Standardにより簡素化する方法が盛んです。しかし、システムの大部分をパッケージやサービスで置き換えたとしてもなお、残る既存システムとの間でデータ連携の見直しは発生します。言い換えると、データ連携の課題はモダナイゼーションの実行時に必ず顕在化します。

本質ではないデータ連携がコストを押し上げる

複数のシステムが連携する場合、システム間ではデータを連携する仕組みが構築されます。通常、このデータ連携は、データの種別やタイミングなどにより、送り側と受け取り側が1対1のシステムであっても多数のデータフローが構築されます。多くの企業では様々な業務システムを導入しており、大小数えれば100を超えるシステムを運用しているという企業も少なくありません。また、それぞれのシステム同士の連携関係は多対多であることが多く、任意のシステムを中心に見ると、データフローは簡単に数百のオーダーとなります。

また、一口にデータ連携と言っても、右から左にデータを流すだけの単純なものもあれば、求められる構造への変換、複数のデータの組み合わせや複雑な計算など、連携パターンは千差万別です。システムモダナイゼーションにより特定のシステムが置き換えられる場合、これらの様々なパターンを吸収するためのデータ連携の見直し(つなぎ直しや組み合わせ処理の見直し)が不可欠となります。

図1:システムモダナイゼーションが与えるデータ連携への影響

このような背景から、データ連携は数が多くなることに加え、連携する際の多様なパターンによりシステムモダナイゼーションにおいて相応のコストが必要となります。前にも述べたとおり、システムモダナイゼーションは延々と続く状況にあるため、その都度起こるつなぎ直しや組み合わせ処理の見直しも繰り返し続けることになります。結果として、企業はデータ連携の見直しという直接的な価値を生まない、しかし無視することができない活動にコストを支払い続ける構図となっています。

図2:システムモダナイゼーションのコスト構造

このようにシステムモダナイゼーションにおけるデータ連携の見直しは、本質ではないとわかっていても延々と続けざるを得ない、非効率かつコスト高な活動と言えます。これらの解決に向けては、従来とは異なる新しいアプローチが必要となります。

仮想化+APIによるデータ連携の簡素化の実現

この課題の解決に向け、既存のデータ連携手段として使えそうな方法や技術を列挙してみました。本コラムで取り上げるデータ連携の見直しに向けて単独で特効薬となるテクノロジーはありません。しかしながら、データ仮想化とAPIの組み合わせは、データ連携の見直しの過程で発生する様々な課題を解決する有効な手段であると考えられます。

図3:データ連携の実現手段とモダナイゼーションにおける有効性

データの仮想化とは、元々、異なるデータソースを統合し、ユーザーの利便性を改善することで、ビジネス判断の迅速性や運用の効率性を向上することに寄与する技術です。データの仮想化は様々な意思決定のシーンにおけるデータの量と多様性の増加に対する解決策として登場しました。それは、連携元システムからデータを移動させることなく、リクエストに応じてオンデマンドに連携元システムにアクセスする仕組みです。これにより、受け取り側が必要とするデータ構造が論理的に展開され、受け取り側が必要に応じてデータを参照することでデータ連携が実現されます。現状でデータの仮想化は、データ利活用における使用が推奨されており、事実、多くの企業がその目的で使用しています。

このデータ仮想化技術がシステムモダナイゼーションにおけるデータ連携の見直しにどう寄与するのか、着目すべき点は、データ仮想化が持つデータ構造に対する柔軟性です。データ仮想化ではデータ構造を論理的に構築するため、連携元システムのデータ構造に縛られず、受け取る側が求める構造でデータを提供することができます。これをシステムモダナイゼーションでのシステム間連携に当てはめると、システムの入れ替えにより変わらざるを得ないデータ構造を、データ仮想化が持つ柔軟な論理データ構造の定義により吸収することが可能となります。

このようなデータ仮想化が持つ特性は、システムモダナイゼーションにおいてデータ連携を効率化するための強力な武器となります。従来のデータ連携手法では、システムの変更や拡張に伴い、データ構造の再設計が必要となり、これがプロジェクトの長期化やコスト増加の原因となっていました。しかし、データ仮想化を活用することで、こうした制約を取り払い、将来的なシステム変更にも柔軟に対応することが可能となります。実際に、ホストシステムとオープンシステムをつなぐデータ連携にデータ仮想化を適用することで成果を上げたお客様もいらっしゃいます。

これまで、データ仮想化は、必要とするデータを手間なく集め、素早くデータ活用へつなげられる点にフォーカスされてきました。このデータ仮想化により提供された仮想データを、データ利活用だけでなく業務システム間でのデータ連携に利用することで、モダナイゼーションにおけるデータ連携の見直しという避けられない課題に対する有効なアプローチとすることが可能となります。

例えば、データの送信側システムの入れ替えを行う場合に、受け取る側が求める仮想的なデータの定義を変更するだけで、従来のデータ連携が再現されます。

図4:データ送信元システムのデータモデル変更を吸収

また、データ仮想化は、複数のシステムからのデータの結合や異なる情報の組み合わせを容易にします。これにより、システム間で構造変更や加工を伴うデータ連携において強力なソリューションとなり得ます。

図5:複数のデータモデルの統合

さらに、データ仮想化は、実際にデータを移動するわけではありません。そのため従来のデータ連携方法では、データの移動や変換に要した多大な時間とコストを削減することができます。データ仮想化を利用することで、データの物理的な移動を必要とせず、データの一貫性と整合性を保ちながら、迅速にデータ連携を実現することができます。

図6:データ転送なしの必要に応じたデータ参照

また、データ仮想化は、データガバナンスとセキュリティの観点からも有益です。データが物理的に移動しないため、データの所在を明確に把握することができ、セキュリティリスクの低減につながります。さらに、データ仮想化プラットフォームは、データアクセスの制御や監査機能を提供し、データガバナンスの強化に寄与します。

このように、データ仮想化はシステムモダナイゼーションにおけるデータ連携の課題を解決し、企業が迅速かつ効率的にビジネスニーズに対応するための強力なツールとなります。

仮想化によるモダナイゼーションの効果

仮想化をデータ連携基盤とすることで、モダナイゼーションにより発生するシステム間連携の影響を局所化することができます。具体的には、3つの効果が期待できます。

(1)データモデルの変更に対する堅牢性

データ仮想化を活用することで、データモデルの変更があっても、その影響を最小限に抑えることができます。従来のデータ連携方法では、データモデルの変更が発生すると、関連するすべてのシステムに対して大規模な修正が必要となり、多大なコストと時間がかかります。しかし、データ仮想化を導入することで、仮想レイヤーがデータモデルの変更を吸収し、下位のシステムに影響を与えることなく変更を管理することができます。

(2)業務改革に向けたデータ拡張の容易性

データ仮想化は、業務改革に向けたデータ拡張を容易にします。新たな業務要件に応じてデータを拡張する際、従来の方法では新しいデータソースの追加や既存データモデルの再構築が必要となり、これが大きな負担となります。しかし、データ仮想化を利用することで、論理的なデータモデルを構築し、必要に応じて新しいデータソースを仮想レイヤーに追加するだけで済むのです。

(3)新規データフロー構築の俊敏性

データ仮想化により、新規データフローの構築の俊敏性が高くなります。新たなシステムとの連携を迅速に構築するためには、従来のデータ連携方法では多くの手間と時間がかかります。データ仮想化を利用することで、仮想レイヤーを介して新しいシステムと既存システムを簡単に統合することができます。

まとめ

データの仮想化は、データ利活用の分野で強力なソリューションとして認知されていますが、システムモダナイゼーションにおいても非常に有効な手段となり得ます。データ連携の見直しという課題から解放されることで、企業はより柔軟で効率的なシステムモダナイゼーションを実現し、ビジネスの競争力を高めることができます。

冒頭で述べたとおり、ビジネス状況の目まぐるしい変化により、企業はシステムのモダナイゼーションを延々と繰り返す必要があります。これらの状況は様々な事業を展開し競争力を高めていく活動と連動して繰り返し行わざるを得ません。Ridgelinezではこれまで多くのお客様とともに新世代のシステム企画や戦略立案をご支援してきました。多くのお客様でシステムモダナイゼーションにおいては、確実に企業活動を支える必要があることから安全性や堅実性を重視する選択が多く見受けられました。しかし、長期的な視点で考えると、それらの選択は継続的な成長を減速させる要因となる可能性を孕んでいると筆者は感じています。

システムモダナイゼーションを効率的に進める秘訣は、最適な技術の選択にあります。今回ご紹介したデータの仮想化はデータ利活用の中で注目を集める技術のひとつですが、システムモダナイゼーションにおいても効果を発揮することがおわかりいただけたでしょう。データ仮想化のような最新技術を活用することで、企業は未来の変化に備え、持続可能な成長を達成するための強力な基盤を築くことができるのです。

Ridgelinezでは、経営・事業・ITのアジリティを最大化することが企業変革を実現するという考えに基づき、Technology Excellenceを提唱し、Technologyを起点とした変革をご支援しています。Technologyは企業変革をプロアクティブに駆動し、変革の加速に大きく寄与する可能性を秘めています。多くの企業が直面するモダナイゼーションの課題をTechnologyの側面から伴走し支援することで、企業変革に貢献していきます。

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執筆者

  • 岡本 裕史

    Director

※所属・役職は掲載時点のものです。

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