テクノロジーをテコに意思決定を進化させる―予測型経営の実現へ―(2)
第2回:意思決定を未来へと高速化させていく予測型経営
データドリブンマネジメントは、データを起点にして意思決定を支援していく手法である。また、その手法によって導き出される将来予測に基づいて、打つべき施策を迅速に決定していくマネジメントを予測型経営と呼ぶ。本コラムでは、データドリブンマネジメントと予測型経営について、3回のシリーズで紹介している。日本企業の経営の状況とデータドリブンマネジメントのコンセプトについて語った第1回 に続いて、今回はRidgelinezの考える予測型経営と、それを支えるサービス「Management X シリーズ」をクローズアップする。
将来を見据え、速やかに施策を打ち出していくデータドリブンマネジメント
データドリブンマネジメントは、その名のとおり、データに基づいて意思決定を行うマネジメントのことだ。経営判断を迅速に、柔軟に下していくために必要となる社内外の企業活動における多様なデータを収集し、分析・シミュレーションを行い、判断材料となる様々な情報を獲得する。そのようにして大きな枠組みでのPDCAを短サイクルで回しつつ、さらに戦略ユニットごとのOODAサイクルを機能させ、速やかに変化を捉えて新たな施策を実行していく仕組みである。
テクノロジーをテコに意思決定サイクルを高速化する
データドリブンマネジメントでは、データが中心とはなるものの、現在ある情報を見える化するだけでは意思決定そのものにはつながらない。過去の実績を振り返り、原因を調べ、そこから状況の理解を深めることは大切だ。しかし、それだけでは「これからどうすべきか?」という答えは得られないだろう。
「今後、前提はどう変化するのか?」「もしもこの施策を実施した場合の結果は?」といった判断を下すために意思決定者が欲しがる材料を提供することが求められる。データを収集するばかりでなく、そこからさらに踏み込み、予測やシナリオシミュレーション、最適化などを駆使し、理解から計画、実行のサイクルを高速化する。テクノロジーをテコにして、このプロセスを実現するのがデータドリブンマネジメントであり、Ridgelinezが目指す予測型経営なのである。
果たして未来は予測できるものなのか?
とはいえ、「果たして未来は予測できるものなのか?」という疑問は当然のように起こる。もちろん、テクノロジーがどれほど進歩しようとも、未来を完全に捉えることはできないだろう。未来は誰も予測できないものである。
データを用いた予測は、過去データに基づいたトレンドや特徴であり、「どう変化したら結果はどうなるか?」に答えるものであって、全く新しい状況を捉えられるわけではない。また、こうした予測に基づいて施策を打てば、それが変化点となって自ら違う状況を生み出すことになり、予測はまた違う方向へと進んでいく。
しかし、未来は、過去や現在からの継続であることに変わりはなく、全く新しいものの集合体というわけでもない。したがって、将来の変化点や動きも含めて、様々なパターンのシナリオを想定し、そのシミュレーション結果や最適化で得られた解をもとに、あり得る道筋を理解し、方向づけを行うことは可能だ。さらにその条件値を予測によって変化させていくことで、取り得る値を理解できる。
予測型経営では、施策の実行による変化や全体の調整による結果を見出しながら、次々と自ら変化をしかけていく。これらを連続させることによって、直近のビジネスインパクトを高め、将来的な企業価値を向上させていくのである。
経営層から事業部、現場まで、すべての階層で最適な判断を促していく
データドリブンマネジメントは経営者ばかりでなく、事業部門の責任者から現場のリーダーまで、企業活動におけるあらゆる意思決定を支援する取り組みであり、すべてのレイヤーに及ぶ。
また、ポートフォリオマネジメントや研究開発費といった中長期的な戦略など、全社リソースのマネジメントをダイナミックに回していく領域や、事業ごと、あるいはそれをさらにブレイクダウンしていった部門や現場の管理とアクションを高度化し、全体最適化を図っていく領域まで、すべての領域が対象となる。
これらを全体連動させ、最終的な目標となる企業価値の最大化に向けて、経営層から事業部、現場まで、その場その環境において最適な判断を促していくのである。
ストラテジーとテクノロジーの両面から予測型経営の実現を支援
Ridgelinezでは、このようなデータドリブンマネジメントの領域すべてを網羅するサービスとして「Management X」シリーズを提供し、予測型経営の実現に向けたテクノロジーとマネジメント変革を強力に支援している。その4つのサービスの特長を紹介しよう。
『Management MatriX』(戦略領域)
戦略領域では、市場・競合を捉え、自社のポジションを決定しなければならない。マーケットレポートや自社事業データをもとに、それぞれのセグメントを分割・集約し、自社と市場、自社と競合で比較する。自社のポジションを確認しつつ、そのパラメータの変化や成長目標を踏まえて、将来をシミュレートし、次の方向性や競合との差別化要素の判断が可能となる。
また、最近、ESGや人的資本などの非財務指標への注目が集まっているが、非財務指標は短期的な財務指標には必ずしも直接関連しないことがRidgelinezの分析でわかっている。一方で、長期的に将来の企業価値を高めるファクターとして、人的資本は有効であるという見方をしている。研究開発や新規事業創出などが可能なアクティビティと人的ケイパビリティが、企業の将来事業の拡大や新たな収益モデルの獲得に寄与するという期待値となり、企業価値の向上に貢献するのである。『Management MatriX』を導入することによって、非財務指標と企業価値の連動性について指標ごとの相関関係をもとにモデル化でき、企業価値を上げるための施策についてデータに基づいた検討が可能となる。
『Management MetriX』(計画領域)
計画領域では、戦略によって定めた狙うべきポジションに対し、目標・予算を立てていく。売上と費用の関係性、何を変えれば相互にどう影響するのか、どこがコントロール可能なのか、予算・計画を連動させるために情報を一元化し、それぞれの費目・活動項目をリンクさせて、どうすれば最適なのかをデータにより導くのである。さらに、現在の経営環境の中で変化シナリオを分析し、取り得る値を組み合わせたシミュレーションにより、変化に対応できる計画を立てる。すると、実際に変化が起きた際に、より迅速に影響が予測でき、インパクトのある施策を打ち出すことが可能となる。
さらに、新事業立ち上げや研究開発、既存事業の拡張などの投資においては、より不確実でボラティリティの高い将来を見込みながら進めなければならない。一気にすべてを意思決定してしまうと、機会ロスや判断ミスを引き起こす可能性もある。その際に、事業価値をリアルオプションアプローチにより算出して意思決定しつつ、段階的に投資を進めることでチャンスをより多く獲得しながら、焦げつく前に撤退することが可能となる。
『Management AutomatiX』(実行・モニタリング領域)
実行においては、リアルタイムによる情報の可視化を、実績だけでなく予測も含めて自動で実施していく。経営KPIをモニタリングする場合、様々な切り口でダッシュボード化されて情報が多くなりすぎてしまい、結果としてあまり見られなくなってしまう恐れがある。そこで、『Management AutomatiX』では、異常検知やアラートなどの機能を組み込み、見るべき情報に絞って確認ポイントを特定し、判断スピードを速めることを実現している。さらに、その先に取るべきアクションについても、パターンをもとにレコメンドし、人の判断が不要と思われるものについては、意思決定を自動化していくことも可能だ。
『Management DynamiX』(コントロール領域)
現状および将来を見通すためには、計画も連動させて変化を織り込みつつ、目標の達成に向けて、より拡大する施策を取っていく必要がある。そのため、『Management DynamiX』では、生産量、価格、原価、人員数、その他コントロール可能な変数とその相互の関係性を過去のデータからモデル化し、前提条件も含めて動的に組み直して最適な値・アクションを導き出す。例えば、価格の動的変化を捉える「Dynamic Pricing」では、需要予測に基づき、その時々で最適な値付けを行うことで、供給と需要のバランスを調整でき、より大きな利益を出せる可能性が高まる。また、スケジュールの組み換えによる最適化、配置の最適化など、与えられた環境変化の前提条件をもとに、最良となるアクションを提示していく。
Ridgelinezでは、このようなサービスの提供ばかりでなく、マネジメントの変革に向けた、経営方針や組織制度の変更、意識・マインド変革、データドリブンに向けた全社的な文化の形成といった領域にまで踏み込んだコンサルティングを行っている。予測型経営の実現において重要となるストラテジーとテクノロジーの両面からの支援を、トータルかつシームレスに提供できることがRidgelinezの大きな強みなのである。コラムシリーズ第3回では、このような強みを活かし、マネジメントそのものから変革していく予測型経営の実践ケーススタディを紹介する。