COLUMN
2023/03/29

テクノロジーをテコに意思決定を進化させる―予測型経営の実現へ―(1)

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第1回:意思決定をアップグレードし、不確実な状況に臨機応変に対応する予測型経営へ

グローバル市場における日本企業の価値が低下している。その背景には様々な要因があるが、最も大きな課題は意思決定のスピードの遅さにあるだろう。この意思決定をアップグレードしていくために有効な手法がデータドリブンマネジメントだ。また、その手法によって導き出される将来予測に基づいて、打つべき施策を迅速に決定していくマネジメントを予測型経営と呼ぶ。本コラムでは3回シリーズで、経営環境の変化から求められるデータドリブンマネジメントと予測型経営について、Ridgelinezの考え方や取り組みを紹介する。第1回は、日本企業の経営の状況と、求められるデータドリブンマネジメントのコンセプトについて深掘りする。

日本企業における価値低下の背景には意思決定の課題がある

近年、グローバル市場における日本企業の価値が低下している。それは客観的なデータを見ても明確だ。図1は、日米欧の主要上場企業のPBR(時価総額/純資産)を比較したものである。PBRが2倍以上の割合を比べると、米国が78%、欧州が59%であるのに対し、日本は33%と大きな差がある。

また、ROE(自己資本利益率)で比較しても、日本では10%未満の企業が約90%を占めるのに対し、米国では約28%、欧州では約66%となっている。(※1)

【図1】日米欧主要上場企業におけるPBRの分布(2021年末時点)

(出所:経済産業省 伊藤レポート3.0(図5))

では、その理由はいったいどこにあるのだろうか。しばしば指摘される旧態依然とした事業構造やグローバル戦略の遅れなど様々な要因が挙げられるかもしれない。しかし、私たちRidgelinezは、最大の課題は企業の経営マネジメントそのものにあると考えている。端的に言うならば、意思決定の遅さだ。

コロナ禍に続いてウクライナ侵攻が勃発するなど、社会を取り巻く環境の変化は先行きが読めないものとなっており、今後、不確実性はますます増していくはずだ。しかし、先を見通せないから成り行き任せでよいという考え方ではマネジメントの意味はないだろう。

目の前のデータをもとに未来のシナリオを描き、いち早く変化を察知しながら迅速かつ柔軟にフィードフォワードしていく経営の仕組みが、今こそ求められているのである。

(※1)経済産業省 CGS研究会(コーポレート・ガバナンス・システム研究会) 10回 2018.10.10 より

意思決定をアップグレードするための3つのキーワード

では、経営における意思決定そのものをアップグレードしていくためには、どのような変革が必要なのだろうか。そのキーワードとしては次の3点が挙げられる。

【図2】経営・意思決定をアップグレードするキーワード

(1)「精度よりスピード」

意思決定のスピードの遅さは、かねてより指摘されてきた日本企業における大きな課題だろう。これまで緻密さや正確性に重きを置いてきた日本の企業人にとって最も苦手なことかもしれない。しかし、確実性を重視するあまり時間をかけて実績を見積もったとしても、その時にはすでにマーケットは次のステージに変化しつつあるというのが今の時代なのである。

これからの不確実な時代においては、たとえ不確実な環境においても、いち早く状況を察知し、不完全でも理解し、速やかに実行して、その結果を見ることが重要である。そして、それを高速に回転させることで、自らが狙うマーケットに対して先行して動くことが可能になる。一方、正確に深掘りしようとすると、局所的な情報、局所的な解を求めようとして、結局のところ方向性を見失ってしまう。大局で捉え、次なる行動を速やかに意思決定して方向性を導いていくことが重要なのである。

(2)「俊敏に」

これは変化に対する重要な姿勢だ。社会や市場の変化を察知したならば、躊躇することなく俊敏に方向を転換すべきだろう。最初に立てた計画を大事にしすぎるあまり、想定していた環境が変わったにもかかわらず、計画の前提を変えずに同じことを続けてしまっていることが多くないだろうか。進む方向が間違っていることに気づいた時には環境がすっかり変わり、それからの回復が手遅れになってしまう。

「変える」ことより、「変えない」リスクの方が高いことをしっかり認識すべきだろう。変わったことに対して、単に変わったことに対応するだけではなく、計画そのものを変える、しかも、その前提条件から変える、ということを繰り返すことで、方向転換を俊敏にできる。たとえ方向転換してその方向にブレがあったとしても、前提をいち早く捉え、高速で意思決定サイクルを回して方向性を変更していくことで、やがて正しい方向へと収斂されていくのである。

(3)「全体(連動)」

さらに重要となるのは、このような取り組みをビジネスの現場から経営層まで企業全体で連動させていくことだ。もちろん、現場での詳細な検討やアクションは今までどおり大事であるが、そもそもの前提を変えた際には、その現場でのアクションを速やかに止めることも含めて考えるべきである。個別最適な個々の施策ではなく、例えばサプライチェーンの需給を連動させ両側で最適化をかけていくなど、全体に及ぶ施策を打っていくことも重要である。意思決定の遅れによるマーケット環境とのズレは時間とともにさらに悪循環を引き起こしていく。企業全体で大胆に動くことが欠かせないのである。

データで捉え、状況を理解し、意思決定するデータドリブンマネジメント

このような企業の意思決定をアップグレードするために有効な手法となるのがデータドリブンマネジメントである。その鍵を握る3つのコンセプトについて紹介しよう。(【図3】参照)

【図3】データで捉え、状況を理解し、意思決定するデータドリブンマネジメント

(1)『同じデータが示される』

データドリブンマネジメントでは、企業活動における様々なデータを、現場から事業部、経営層まですべての階層で共有する。従来のような手作業による実績の集計の場合、時間がかかるばかりでなく、その途中で意図的にデータが隠されたり加工されたりする場合もある。一方、データドリブンマネジメントで共有するのは、生のリアルタイム情報だ。透明性の高いデータを収集・分析することによって、事業の加速や戦略的撤退など迅速な意思決定が可能になる。

もちろん、現場の生のデータがすべて可視化されるからといって、それらを逐一事細かに見る経営者はいないだろう。重要なことは、透明性の高いデータをすべての階層で共有し、それに基づく速やかな事業活動が実現されることなのである。

データドリブンマネジメントでは、このような垂直方向に加えて、部門や拠点といった枠組みを超えた水平方向の情報共有も実現される。その結果、ビジネスにおけるポジションやパフォーマンスを細かな単位の組織・ユニットごとに比較できるようになる。人間関係や過去の功績などにとらわれることのない、同じ土俵に立った透明性の高いデータに基づく評価によって、公平な事業運営が可能になる。

(2)『連続・継続的に捉える』

経営会議では、過去の実績の報告を受けて予算の達成・未達を共有し、後ろ向きの原因追及や、実効性が高いとは言い難い改善施策の提示にとどまっていないだろうか。過去を振り返り、その時々の状況しか見ていない、いわゆる「バックミラー経営」である。

しかし、不確実性が増すこれからの時代では、計画の前提やシナリオは次々と変化していく。したがって、過去の実績と現在の状況を的確に把握し、その時の前提やシナリオがどのように変化し、現在はどのような立ち位置にあるのか、それが将来どうなっていきそうなのかを、連続的・継続的に捉えて理解することが重要となる。つまり、nowcast、forecastの経営である。

売上や利益といった実績ばかりでなく、その前提やシナリオの変化までも同一のロジックで継続的に捉えていく。その結果、その時々の状況をしっかり理解できるばかりでなく、何がブレたのか、あるいは何が上手くいっているのかなどを把握し、将来の変化を予測して速やかに意思決定することが可能になる。

(3)『一連をデータで捉える』

これまで企業活動で活用されるデータは、会計や伝票などの処理を経た計上データがほとんどであった。しかし、それらはごく一部にしか過ぎず、企業の活動では日々様々なデータが発生しており、これら処理されていない生のデータを捉えないと全体を把握することはできない。意思決定で欲しいのは、未来を表す情報である。そのためには、例えば商談時など受注前の市場や顧客の動向といった未確定な情報も含め、すべてのプロセスにおける情報が必要になる。

さらにそれを実現するためには、今あるデータだけでは不十分な場合もある。意思決定の際に求められる情報を得るためには、改めて必要となるデータを定義し、それらを狙って得られるように、データファーストの視点から業務やプロセスの改革が必要となる場合もあるだろう。

このように予測型経営は、組織や人の行動をデータ駆動型に変えていく取り組みであり、まさに経営における大きなパラダイムシフトである。コラムシリーズ第2回では、Ridgelinezの考える予測型経営と、それを支えるサービス「Management X シリーズ」について紹介する。

執筆者

  • 大塚 恭平

    Senior Manager

※所属・役職は掲載時点のものです。

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