CES2025モビリティ総覧:CES2025が示した革新の全貌
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今年1月初旬、米国ラスベガスで開催されたCES2025は、モビリティの可能性を「移動」の概念を超え、社会全体を構築する力として再定義した。これまでもモビリティはCESの主要テーマとして注目を集めてきたが、今回のCES2025では、その意義がさらに進化・深化したことを感じた。電動化や自動運転などに加え、自律型の交通管理、スマートシティ、高効率な交通インフラといった、モビリティを支える包括的なエコシステムにも焦点が当てられた。また、陸上、海上、空中を横断するテクノロジーは、社会構造の再設計やコミュニティの形成に寄与するビジョンも描き出した。移動が「つながり」としての役割を担い、人々の生活、都市の在り方、さらには地球規模の課題にまで影響を及ぼす姿が浮き彫りになった。本記事では、モビリティの主要トレンドを解説するとともに、私たちの社会がどのように進化していくのか、その全貌を探っていきたい。
※この記事は、2025年1月に開催された「CES 2025」のレポートとして「富士通テクノロジーニュース」に掲載されたものです。
モビリティの3大トレンド-電動化
CES2025では、これまでのCESでも取り上げられてきた電動化、コネクティビティ、自動運転という3つのトレンドが改めて整理され、それらを軸に陸上、海上、空中にまたがるモビリティの可能性が多角的に示された。
モビリティの中心テーマである電動化では、新興OEM(完成車メーカー)を中心に最新のEVモデルが披露された。Scout Motorsの「Terra」は、クラシックなSUVデザインと現代の電動化テクノロジーを融合させたプロダクトだ。力強いオフロード性能と洗練されたデザインを兼ね備え、冒険心を刺激しながらも環境への配慮を忘れない一台として注目を集めた。ソニーグループとホンダが折半出資するソニー・ホンダモビリティは、CES2025のプレスカンファレンスで、2026年に市場投入する電気自動車「AFEELA1」を8万9900ドル(約1420万円)から発売すると発表。「AFEELA1」は、ソニーのデジタル・テクノロジーとホンダの生産技術を融合したプロダクトだ。価格には、先進運転支援システム、エンターテインメントサービス、対話型AIなどの3年間の利用料金も含まれるという。
陸上車両以外にも、電動化は新たな可能性の広がりを見せている。海洋モビリティでは、マリンエンジン分野などに注力する海洋機器メーカーのBrunswickが電動推進システムや自律航行テクノロジーを駆使した環境配慮型ボートを発表。水上での持続可能な移動手段として、新たな価値を提案した。さらに、空の移動を担うeVTOL(Electric Vertical Take-off and Landing/電動垂直離着陸機)は、未来のモビリティの象徴として注目を集めた。Invo StationやXpeng AeroHTが披露した次世代の空中モビリティは、都市部の交通渋滞や環境負荷を解決し、移動の常識を根底から覆す可能性を秘めている。
電動化は産業、都市、そして環境との調和を目指した新たな形態へと進む。そこで取り上げたいのが、農業や建設、重工業といった産業用途のモビリティと、都市部で人気のマイクロモビリティだ。
CES2025では、産業車両がこれまで以上に進化を遂げた。農業機械や建設機械のリーダー企業であるJohn DeereやCaterpillarは、自律型車両や電動化テクノロジーを駆使して、危険な作業現場での安全性や効率性の向上を実現するソリューションを披露。今年初めて出展したコマツは、月面建設機械の実物大モックアップや水中施工ロボットのコンセプトマシンを公開した。クボタの全地形型プラットフォーム車両「KATR」は「CES Innovation Awards® 2025」で「Best of Innovation」を受賞。傾斜地や凹凸のある路面でも荷台を水平に保ちながら走行できるという機能を備えたコンパクト車両として注目を集めた。動力源はエンジンのほか、電動仕様も開発が進められている。特殊車両メーカーのOshkoshも初出展、飛行機の除氷車や資材運搬用のテクノロジーを披露し、産業分野での応用可能性を示した。
一方、都市部の交通効率化や持続可能な社会を支える「マイクロモビリティ」は、移動の概念を刷新する重要な要素となっている。電動自転車やスクーターといった小型移動手段は、環境配慮と利便性を両立するソリューションとして関心が高まる中、特に「eBike界のレクサス」とも称されるAIMA E-Bikeの電動スクーターがひときわ脚光を浴びた。コンパクトなデザインに優れた性能を兼ね備えたこのモデルは、都市生活者へ新しい移動手段を提案し、持続可能なモビリティの展望を示している。
さらに、マイクロモビリティの可能性は、都市交通の効率化だけでなく、ライフスタイルの変革にも寄与する。例えば、電動自転車やスクーターは、短距離移動やラストワンマイルの輸送手段として、公共交通機関と連携する形でその価値を高めることができる。これにより、交通渋滞の緩和やCO₂排出削減が期待されるだけでなく、個人の移動の自由度も飛躍的に向上する。CES2025では、AIMA E-Bikeをはじめ、多くの企業がマイクロモビリティに関する新たなアプローチを発表し、都市環境におけるモビリティのビジョンを提示。これらは、環境負荷の軽減と利便性の向上を同時に追求する現代社会において、不可欠な存在へとなっていくはずだ。
EV普及が鈍化、再加速へのカギは?
CES2025に見る電動化の勢いとは対照的に、成長を続けてきた電気自動車(EV)が主要市場で減速の兆しを見せ始めているのも事実である。特に米国や西欧では、その動きが顕著だ。地政学的あるいは経済的な要素も背景にあるものの、真の課題は消費者の意識の変化にある。これまで市場を牽引してきたアーリーアダプター層の購入ラッシュが一段落し、一般消費者の購買行動が次の成長を左右する調整局面に入っているのだ。
EVメーカーが直面する課題は、販売価格やメンテナンスコストの高さ、不十分な充電インフラ、バッテリー寿命や航続距離への不安といった、極めて現実的な障壁だ。これに加え、政策の不透明さが市場の成長を鈍化させている。補助金の縮小や撤廃、ガソリン車販売禁止目標の変更といった一貫性を欠いた対応も、消費者の購買意欲を低下させる。地域毎の市場動向にも大きな違いがある。中国では政府による強力な支援政策がEVの購入障壁を低くする一方、米国では政策の揺らぎが消費者心理を冷え込ませている。実際、米国のテスラは、2024年の年間販売台数が約179万台となり、前年の約181万台から1.1%減少。これは、テスラにとって実に12年ぶりとなる年間販売台数の減少となった。一方、中国のBYDは新エネルギー車(NEV)の2024年販売台数が427万台を超え、前年比41%増を記録した。
EV購入へのモチベーションとして挙げられるのは、ガソリン価格の高騰、環境への配慮、ガソリン車に対する規制強化といった要素だが、こうした期待だけでは市場全体を次の成長ステージへ引き上げるのは難しいだろう。EVが高級志向のプロダクトから脱却し、手頃な価格でプレミアムな体験を提供する存在へ進化することが必要だ。
EV市場は、米国や西欧ではキャズム理論が指摘する「キャズム(断絶)」に直面しているという指摘もなされた。キャズム理論とは、新しいテクノロジーやプロダクトが普及する際、初期の熱心な採用者から、より保守的な多数派へと広がる過程で、大きな断絶(キャズム)に直面するというものだ。このキャズムを超えるには、一般消費者が求める具体的な実用性や信頼性を確立し、テクノロジーやプロダクトの価値を広く認知させることが不可欠とされる。
米国EV市場では、これまで市場を牽引してきたEV熱心派(EV Enthusiasts)やEV検討派(EV Considerers)といったアーリーアダプター層の勢いが減速する中、次の成長を担うのはEV懐疑派(EV Skeptics)、EV消極派(EV Reluctants)、EV検討可能派(EV Persuadables)といった一般消費者層だ。この新たなターゲットに向けて、価格の現実性や充電インフラの改善、さらに使いやすさや信頼性を強調する具体的な戦略が求められている。
次なる成長に向けた調整局面に入ったEV市場だが、キャズムを乗り越えて成長を再加速させるためには何が必要か。まず最優先すべきは、充電インフラの整備だろう。消費者が求めるのは、ガソリン車のように迅速でどこでも充電できる環境だが、現状はこれに遠く及ばない。充電拠点の不足や互換性の課題、リアルタイム情報の欠如、そして長時間の充電待ちが、EVへの転換をためらわせる障壁となっている。また、手頃な価格とプレミアムな体験の両立も求められる。市場拡大のカギを握るのは、アーリーアダプター層ではなく、一般消費者層だ。彼らは低価格だけでなく、EVが提供する付加価値や体験の質を重視する。ガソリン車を上回る利便性や魅力的な機能を訴求することで、EVを選ぶ明確な理由を与えることができる。さらに、フルEVへの移行に抵抗を感じる消費者にとっては、ハイブリッド車やプラグインハイブリッド車は重要な架け橋となるだろう。これら車両は、充電インフラへの懸念を軽減し、消費者がEV市場にスムーズに移行できる道筋を提供する。
変化するEV市場競争の構図
CES2025では、これまで存在感を示してきた大手OEM(EVメーカー)の出展が減少した。背景には、EV市場がキャズムに直面し、主なプレイヤーの勢力図が変化していることがあると考えられる。米国企業ではテスラ、中国企業ではBYD等がすでに確固たる主導権を握り、さらに昨年はシャオミがEV市場に新規参入した。これらの企業は、従来の電動化の枠を超え、新たな価値を独自に生み出しながら、市場の未来を形作っているように見える。
「Software Defined Vehicle(SDV)」の先駆者テスラは、ソフトウェアのアップデートによる車両の進化を可能にし、その柔軟性と拡張性で他を圧倒的にリードする。
SDVとは、車両の機能や性能をハードウェアではなくOTA(Over the Air)を通じたソフトウェアによって制御・更新するシステムを指す。従来の車両設計がエンジンや機械構造に依存していたのに対し、SDVではソフトウェアが中心的な役割を担い、車両はまるで「走るスマートデバイス」のように進化する。このSDVの土台には、2016年のパリモーターショーでダイムラーの会長(当時)ディーター・ツェッチェ氏が提唱した「CASE」という概念がある。CASEは「Connected(コネクテッド)」「Autonomous(自動運転)」「Shared & Services(シェアリングとサービス)」「Electric(電動化)」という4つのトレンドを示し、自動車産業の未来を方向付けるキーワードとして広く認識されている。SDVは、このCASEから生まれた中核的な要素であり、モビリティを支えるカギとなるテクノロジーだ。
テスラのSDVで見逃せないのが、「FSD(Full Self-Driving)」機能だ。FSDは完全自動運転を目指したプログラムであり、ソフトウェアのアップデートを通じて自動運転機能の高度化を継続的に提供する。テスラの車両は、OTAを通じてリモートで様々な機能を更新できる。この仕組みにより、新たな運転支援機能やインフォテイメントなどユーザー体験の改善が迅速に導入され、車両は購入後も常に進化し続けるというわけだ。特にFSD搭載車両は、センサーやAIとの統合により、自動運転の性能向上がソフトウェアとともに進み、精密かつ安全な運転を実現する。FSDを含むソフトウェアのアップデートの進捗状況は、四半期毎に開示される株主向け報告書で詳細に説明され、技術開発の透明性を保ちながら進化の方向性を常に開示している。このアプローチは、テスラがOEMを超え、テクノロジー企業としての地位を確立していることを示している。
なお、今年は、自動運転車両でのロボタクシー事業を計画するテスラにとって、追い風が期待できる。イーロン・マスクCEOはトランプ次期政権の誕生に貢献したとされるが、そのトランプ次期政権は、マスク氏の影響を受けて、自動運転車両に関する規制緩和を検討しているとの指摘がある。連邦レベルで新たな規制枠組みを構築し、運輸省を中心に自動運転車両の普及を後押しする方針が示唆されている。モビリティのセッションでは、マスク氏の影響により自動運転に関する規制が緩和されることに対する期待と不安が表明されていた。
一方で、中国の代表格BYDも、SDVで着実な進化を遂げている。モーター、バッテリー、ECU(電子制御ユニット)を統合した高度なプラットフォームを有し、これにより車両の性能向上と生産効率の最適化を実現。昨年には「e3.0ドメインコントローラープラットフォーム」を導入、次世代プラットフォーム「e4.0」への移行準備も進めている。この新しいプラットフォームは、車両をより効率的に制御するための仕組みを採用する。車両管理を一元化しつつ、ゾーン・アーキテクチャーのゾーン毎に機能を分担する設計で、ソフトウェアによる操作をさらにスムーズにすることを目指している。現在、BYDは一部の分野で外部サプライヤーに依存しているが、2030年までにはソフトウェア開発の大部分を内製化するという。そのため、ソフトウェア開発能力の強化を最優先課題として位置付け、積極的に投資を進めている。こうした取り組みにより、BYDはSDVにおける競争力をさらに高め、テスラに匹敵するリーダーシップを確立しつつある。
日本では中国のスマホメーカーとして知られるシャオミだが、昨年はEVセダン「SU7」を発売し、EV市場への本格参入を果たした。その性能は目を見張るもので、フル充電時の航続距離は700km、価格は約480万円、0-100km/h加速はわずか5.28秒。一方、競合するテスラ「モデル3」の航続距離は605km、価格は約550万円、0-100km/h加速は6.1秒。シャオミのEVは価格がよりリーズナブルであるにもかかわらず、性能でテスラのEVを上回っている。シャオミは「仕様の90%以上でモデル3より優れている」と自信を示す。
しかし、シャオミの真のすごさは、そこではない。同社は、「ヒト×クルマ×ホーム」を軸としたスマート・エコシステム戦略の中核にEVを据えている点において、他社と一線を画す。実際、「SU7」発表と同時に、スマホ、EV、スマート家電を統合する共通OS「Xiaomi Hyper OS」を発表。この戦略は、EVをエコシステムの一部として位置付け、ユーザーの生活全体を支える仕組みを構築することを目指している。シャオミが目指すのは、EVというハードウェア単体での収益化ではない。スマホ(ヒト)、EV(クルマ)、スマート家電(ホーム)という3つの柱を通じてサービスを提供し、そこから得られる膨大なビッグデータを解析することで、ユーザー体験を継続的に向上させる仕組みだ。このエコシステム全体で収益を生み出すモデルは、シャオミが競合他社に対して強みを発揮するカギとなる。シャオミの「SU7」は、その壮大なビジョンの一部として市場に投入されたものであり、スマート・エコシステムの未来を見据えた戦略的プロダクトと言えるだろう。
現在、テスラ、BYD、シャオミといったテクノロジー企業が、EV市場で圧倒的なシェアを誇り、技術力や膨大なデータ活用の面で他を大きく引き離している。一方で、かつて競争の主役として存在感を示していた多くの大手OEMは、その競争力を相対的に失いつつある現実が浮かび上がる。この変化は、CES2025で主要OEMの出展が減少したことにも反映されているのではないかと考えられる。EV市場がこれまでの競争モデルを超え、一部のリーダー企業による主導が顕著になる新たな局面へと進んでいることを示唆している。電動化の進展が競争の構図そのものを変えた現実が、ここに明確に表れていると言えよう。
モビリティの3大トレンド-コネクティビティ
コネクティビティの進化は、車両を移動手段から「つながるプラットフォーム」へと昇華させ、モビリティの新たな価値を創り出す。中核にあるのがSDVだ。
SDVによって車両は、移動中のエンターテインメントや情報提供の枠を超え、都市全体のスマートシステムとシームレスに連携する基盤となる。特に、リアルタイムでの車両同士の通信や都市インフラとの接続を可能にすることで、交通の効率化や安全性の向上が実現。これにより、都市部での渋滞緩和やエネルギー使用の最適化が促進され、持続可能性と利便性が共存する都市生活のビジョンが具現化される。
例えば、OEMの中でもBMWとホンダが、SDVの進化を印象的に展示した。BMWは、生成AIを活用した車内音声アシスタントを発表。このアシスタントはドライバーズマニュアルを置き換える新機能を備え、車両固有の情報を提供することで、ドライバーが必要な機能を直感的かつスムーズに操作できるよう支援する。ホンダは次世代EVシリーズの第一弾として、2026年前半に発売予定の「ホンダ ゼロ SUV」のプロトタイプを世界初公開。SDVを中心とした次世代EV戦略の全貌とその実現に向けたロードマップを提示し、ホンダが目指す未来のモビリティの姿を具体的に示した。
一方、テクノロジー企業によるSDVへの取り組みも注目を集めた。Garmin(ガーミン)は、車載用ナビやインフォテインメントで知られる企業だが、近年では車載システム向けの高度なソフトウェアソリューションの開発や、クラウドと連携したナビ機能の強化に力を注いでいる。Qualcomm(クアルコム)は、「Snapdragon」プラットフォームを活用し、ヘッドアップディスプレイやインフォテインメントを統合することで、直感的かつ没入感のある車内体験を提供する。BlackBerryは、車両の安全性と接続性を支えるシステム開発で重要な役割を果たしている。音楽再生や安全情報の表示をサポートするインフォテインメントに加え、ダッシュボードや車載システム全体のセキュリティを強化する技術を提供する。Continentalは、センサーやパワートレインなどの主要コンポーネントにソフトウェアを統合し、次世代の車両ソリューションを展開。特にバッテリー管理やパワーディスプレイの効率化に注力するほか、視認性の高い直感的なダッシュボード表示機能も提供する。
車両はもはや、高度なテクノロジーを搭載した「つながるプラットフォーム」へと進化を遂げた。SDVの進化は、車両そのものをこの新しい視点で再構築するものと言えよう。
モビリティの3大トレンド-自動運転
自動運転は、CES2025で現実味を帯びたテーマの一つとして存在感を放った。WaymoのロボタクシーやApexの自律型トラックは、自動運転テクノロジーの進化と商用利用の加速を示している。これらの車両は高度なセンサー、LiDAR、AIを活用し、人の運転者を超える安全性と効率性を実現。未来のビジョンとしてではなく、現実の課題に対する具体的なソリューションとして披露された。自動運転では、以下の写真の通り、「Autonomous Vehicles: The Future is Finally Here」というタイトルのセッションもあり、そこでも典型例として紹介されたのが、グーグルの持株会社Alphabet傘下のWaymoだ。
Waymoは昨年、驚異的な成長を遂げた。フェニックス、サンフランシスコ、ロサンゼルスでのロボタクシーの商用運行を大幅に拡大し、累計500万回を超えるドライバーレス・ライドを達成。運行エリアは500平方マイルに及び(2024年12月時点)、これは東京都23区の面積(約240平方マイル)の倍以上という広さだ。今年以降、Waymoはオースティン、アトランタ、マイアミなど新たな都市への進出を計画しており、さらには日本市場への進出も視野に入れている。以下の写真の通り、同社の世界展開は展示会場では巨大な地球儀で示されており、その中で日本展開も明記されていたのが印象的だった。
同社の展開で特筆すべきは、オースティンとアトランタでの動きだ。Waymoはここで、配車プラットフォームの巨人Uberと提携し、ロボタクシー事業を展開予定。Waymoの先進的な自動運転テクノロジーとUberの幅広い利用者基盤を組み合わせることで、両者のシナジーを最大化し、新たなユーザー層へのアプローチを加速させる。これらの動きは、自動運転が、現実に社会実装され機能し始めていることの証左だ。
CES2025の基調講演に登壇したWaymo共同CEOのテケドラ・マワカナ氏は、自動運転テクノロジーの課題と取り組みについて3つのテーマに分けて説明した。第一に、「安全性の確保」を最優先事項としてコミット。Waymoは、膨大な走行データをもとに、自動運転が従来の交通手段よりも高い安全性を提供することを強調した。同時に、連邦規制の枠組みにおいても、安全性を担保する基準整備が必要だと訴え、業界全体がこの課題に向き合うべきだと語った。第二に、AIを活用したテクノロジーの進展が取り上げられた。Waymoは、大規模言語モデルと視覚モデルの統合を進めることで、センサーやAIの判断力をさらに強化、より正確で信頼性の高いシステムの開発を進めている。また、多様なセンサーを組み合わせた冗長性のある設計は、システムの安定性を高め、競合との差別化を図るうえで重要な要素となっている。そして第三に、事業拡大に向けた具体的な計画が示された。Waymoは、さらなる都市や海外市場への展開を視野に入れる。また、技術ライセンス供与など、多分野における連携を模索しながら、事業の多角化を進める意向も示した。Waymoは、これらの取り組みを通じて、自動運転テクノロジーの信頼性と実用性を社会に証明し、競争激化する市場において確固たるリーダーシップを築こうとしている。
「クルーズ・クラッシュ」が浮き彫りにした自動運転の課題
GM傘下にあった自動運転開発企業Cruise(クルーズ)は、2023年10月、サンフランシスコで無人運転車両が歩行者に衝突するという事故を起こした。これは、ひき逃げに遭い路上に倒れていた女性をCruiseの自動運転車両が回避できず、下敷きにしてしまったという痛ましい事案だ。これを受け、カリフォルニア州当局はCruiseの無人運転試験許可を即時停止し、営業停止命令を発令。さらに、2023年11月には米国運輸省国家道路交通安全局(NHTSA)への報告不備が明らかとなり、Cruiseには50万ドルの罰金が科された。GMはCruiseへの追加投資を中止し、ロボタクシー事業からの撤退を決定。今後はCruiseの自動運転テクノロジーをGMの運転支援システムに統合し、個人向け車両への応用に注力する方針を示している。
この事故は、一部で「クルーズ・クラッシュ」とも呼ばれ、自動運転テクノロジーの安全性と信頼性に対する議論を再燃させ、同社が事業を頓挫させた要因ともなった。自動運転は交通事故削減の方策としても期待されているが、一方でテクノロジーの未成熟さや予測不能な状況への対応力の限界が課題として浮き彫りとなった。特に、複雑で瞬時の判断を要する状況では、自動運転車両がどこまで人間の判断を代替できるのか、その限界が問われているのだ。
GMがCruise事業から撤退した背景には、経営、テクノロジー、市場競争が絡む。GMは2016年以降、Cruiseに100億ドル以上を投じたが、収益化の道筋を描けず、巨額のコストが事業継続を阻む大きな要因となった。また、事故とその後の制裁は、信頼性を損ね、消費者や投資家の支持を失う結果となった。さらに、Waymoやテスラなど競合企業がテクノロジーでリードし、市場での地位を守るのが難しくなった点も見逃せない。
その一方、Waymoは対照的に自動運転分野でのリーダーシップを強固にしている。昨年12月の時点で、実走行距離とシミュレーション走行距離は合計200億マイル(約320億キロ)、ドライバーレス・乗客のみの実走行距離だけでも2,530万マイル(約4,071万km)を超えた。昨年10月には、56億ドルの資金調達を成功させている。現在、フェニックス、サンフランシスコ、ロサンゼルスで商用ロボタクシーを運行しており、「安全性第一」の姿勢が消費者からの信頼を勝ち得る要因となっている。この差は、テクノロジーの成熟度、資金力、そして信頼構築における、WaymoとCruiseの違いを如実に物語っている。
「クルーズ・クラッシュ」は単なる失敗事例ではなく、自動運転業界全体が直面する安全性への課題を浮き彫りにした。テクノロジーの完成度を高め、持続可能な資金力を確保し、何よりも消費者の信頼を築くことが、自動運転が普及するための必須条件であることを示している。この事件は、自動運転テクノロジーの未来を切り開くための教訓として、業界全体が学ぶべき重要な出来事として記憶されるべきだろう。
コラボレーションが紡ぐ、「Woven City」が描くコミュニティの新潮流
CES2025では、モビリティ関連テクノロジーは、交通システムや道路インフラを超え、社会をつなぐエコシステムとして、コミュニティの中核を担う存在として位置付けられた。モビリティは、単に、A地点からB地点への移動をより効率的にしたり、移動時間を利用して何かをしたりする手段にとどまるわけではないということだ。
その象徴が、トヨタ自動車の「Woven City」だ。「Woven City」とは、CES2020で豊田章男社長(当時)が構想やプロジェクト概要を発表した、静岡県裾野市の東富士工場跡地に建設中の実証都市のことだ。これは、あらゆるモノやサービスが連携するコネクテッド・シティとして機能し、AI、パーソナルモビリティ、ロボットなどの実証実験の場となる。トヨタ自動車は、網の目のように道が織り込まれ合う街の姿をモチーフに、「Woven City」(ウーブン・シティ)と命名していた。
CES2025ではプレスカンファレンスに登壇した豊田章男会長は「Woven City」に関するプレゼンテーションを実施し、フェーズ1の建築を完了、今年秋以降にオフィシャルローンチを予定していると語った。今年から住民が住み始めフェーズ毎に増加予定で、最終的にはトヨタの従業員やその家族、定年を迎えた方、小売店舗、実証に参加する科学者、各業界のパートナー企業、起業家、研究者など約2,000名が住むと言う。「Woven City」で注力するのは、ヒト、モノ、情報、エネルギーのモビリティという4つの領域の研究とイノベーションだ。豊田会長はこれを「モビリティのテストコース」と呼び、社会が抱える課題を解決するリアルな実証の場として発展させると宣言した。
トヨタ自動車は、「Woven City」を運営するにあたり、グローバル企業として培ってきた知見とテクノロジーを共有し、地球と人々に幸せをもたらす新たなアイデアを支援することをミッションとしている。自動車産業で培った強みと異業種の持つ独自の力を掛け合わせることで、個々の力では生み出せない新しい価値、プロダクト、サービスを創出することを目指す。このアプローチは「掛け算による発明」と表現され、イノベーションの基盤となっている。「Woven City」においてカギとなるのは、コラボレーションだ。多様な視点や才能、テクノロジーを一つの布に織り込むように結びつけ、新たな未来を形作る。住民自身、インベンターたちが開発した革新的なプロダクトやサービスを体験し、その未来を共に紡いでいくという重要な役割を担う。「Woven City」は、モビリティ関連テクノロジーと人間性が融合する未来のコミュニティとして、社会に新たな可能性を示す舞台となるだろう。
スズキの「小・少・軽・短・美」に日本の活路を見出す
日本が誇る小型車メーカー、スズキは、CES2025で「Impact of the Small」というテーマを掲げ、独自の哲学とテクノロジーを融合させたモビリティソリューションを披露した。日本の大手OEMの多くが出展を見送るなか、また大きな注目を集めたWaymoの真横でブースを展開したなかでも、抜群の存在感を見せた。上記のテーマには「小さなものづくりが、大きく社会を変える」というビジョンが込められており、社会課題の解決に共感するパートナーを増やすことを目指した展示となった。
「Impact of the Small」は、スズキが築き上げてきたものづくりの理念「小・少・軽・短・美(Sho-Sho-Kei-Tan-Bi)」に根ざしている。この理念は、「小さく(small)、シンプルに(few)、軽く(light)、スピーディーに(short)開発し、その調和は必然に美しいもの(beautiful)になる」という考え方を反映。これにより、スズキは環境負荷を抑えながらも、効率性、機能性、デザイン性のすべてを兼ね備えた製品づくりを実現するという。
スズキの代表的な軽トラック「スーパーキャリイ」は、小回りが利き、多くの荷物を積載できる実用性の高さで知られ、1961年の誕生以来60年以上にわたり人々の暮らしを支えてきたモデルだ。広々とした室内空間としっかり積める荷台スペースを備え、まさに「小・少・軽・短・美」を具現化したプロダクトである。スズキの展示は、テクノロジーの紹介にとどまらず、「小さなもの」が持つ可能性を最大限に引き出し、それを通じて社会全体にポジティブな影響を与えるという、強いメッセージを発信する場となった。
スズキとApplied EVが共同で開発した自動運転電動台車も見逃せない。スズキの四輪駆動車「ジムニー」のラダーフレームをベースとする小型自動車サイズのこの台車は、安全性とシンプルさを重視して設計されており、物流現場の効率化や人手不足に対応するソリューションとして期待されている。「ジムニー」ベースであることから、車体構造の製造もスズキが担当し、生産コストの削減と大量生産も見込む。自動運転テクノロジーの未来を見据えた革新的な取り組みで、働く人の代わりとなり地域社会や産業を支える新たなモビリティの可能性を示している。
こうした展示は、スズキがOEMの枠を超え、未来の社会における小型モビリティの可能性を切り開く革新者であることを象徴している。「小・少・軽・短・美」という実に日本らしい哲学を土台に、スズキは環境問題や社会課題に対して「小さなものづくり」が持つ大きな可能性を世界に示した。この理念は単なるプロダクト設計の指針にとどまらず、資源効率や環境負荷の削減といったサステナビリティの要素を加味した、新しい価値創造の形を提案しているのだ。
例えば、自動運転電動台車は、物流現場や人手不足の問題に対応する実践的なソリューションを提供するだけでなく、小型かつ効率的なモビリティがどのようにして地域社会や産業に変革をもたらすかを具体的に示している。このような取り組みは、単なる技術革新にとどまらず、世界各地で直面する課題への答えを提示するスズキの先進的な姿勢を反映していると言える。
スズキの展示はまた、日本が国際社会で果たすべき役割を提案するものでもある。「小さなものづくり」の思想をもとに、大きな課題に対して柔軟かつ効果的にアプローチするモデルを提示することで、グローバル市場における競争力を強化すると同時に、国際的な課題解決に貢献する具体的なビジョンを描き出した。スズキの姿勢は、持続可能な未来を形作るための社会的責任とリーダーシップを体現している。こうした取り組みは、単なるプロダクト開発ではなく、世界が直面する環境問題や社会変革に対する「日本の知恵」として、グローバルな舞台で高く評価されるだろう。スズキが切り開くこの道筋は、日本のモビリティ関連テクノロジーと文化的な価値観がどのようにして国際社会に貢献し得るのかを示す好例であり、日本らしいモビリティ哲学の可能性を再認識させるものである。
モビリティはもはや単なる交通手段ではなく、社会の課題を解決するイノベーションの中心に位置する存在である。CES2025はその具体的な可能性を示した。技術革新が都市、産業、環境にどのように変革をもたらし、人々の生活をより豊かにするかを示唆した点で、非常に意義深い展示会であったことを最後に記しておきたい。