生成AI時代に人間に求められるスキル(後編):生成AIで時代に取り残されないために―これから求められる「ビジョンを描く力」―
生成AIが今後さらに発展することで、ビジネスの変革や業務効率化はより飛躍的に進むと予想されます。しかし、それは見方を変えれば自分が行っていた仕事もしくはビジネスがAIに奪われてしまうというリスクがあることを意味します。これまで行ってきたことがAIに取って代わられ、時代に取り残されてしまわないためにはどうすればよいでしょうか。
本コラムの前編では、生成AIの概況および同技術に対する国内外の企業や政府の動きを指摘しながら、その業務への影響について触れてきました。後編となる今回では、引き続き、生成AIのもたらす可能性に触れるとともに、その課題点も指摘しながら、生成AIを扱う人に今後、求められるあるべき姿を示します。
※本稿は、田中道昭『生成AI時代 あなたの価値が上がる仕事』(青春出版社社)の第5章「生成AIでなくなる仕事、生み出される仕事」の一部を再編集したものです。
まだ道半ばである生成AIの発展
本書の読者のなかには、生成AIの活用やAIの普及など、ずっと先の話だろうと呑気に考えている人も少なくないでしょう。当然ながら、AIの普及によって自分の仕事が奪われる、などとまで考えてはいません。実際にチャットGPTやバードを使ってみても、たいして仕事に役立たなかった、といった経験からそう思うのかもしれません。
しかし、それはあなたの生成AIの使い方に問題がある可能性があります。出始めたばかりの生成AIのため、まだその活用法、つまり、どう命令し、どう仕事に取り入れていくのか、そのノウハウが確立していないからです。
23年4月、みずほリサーチ&テクノロジーズが「ATHEUS for Generative AI」というサービスを開始しています。これはGPTに代表されるさまざまな生成AIの活用に向け、その課題やデータを考慮しながら最適なユースケースを発掘し、プロンプトエンジニアリングやデータ収集、環境構築、検証といったことを助けるGPT支援サービスです。
企業や個人がGPTを活用し、どう業務や仕事に活かしていくかを支援してくれるサービスです。実はこれもAIの登場により、新しく生まれてきた仕事だといっていいでしょう。
AIを使いこなせなければ不便な生活を強いられかねない
AIが普及していくと、社会のなかで多くのことがAIによって便利になっていきます。これまで人の力によって行っていたことや、人間ではできなかったことなども、AIによって実現されるようになります。
たとえば、通勤時には無人で自動運転されるタクシーやバスに乗り、駅の改札では顔認証システムで改札を通り抜けられるようになるでしょう。顔認証システムと銀行口座やクレジットカードとが紐づいていれば、コンビニやスーパーでの買い物も無人の店舗で済ませられます。病院に行けば、やはり顔認証システムで本人確認が行われ、カルテもオンラインで提供されます。医者はこれらのカルテやAIによる診断を参考に、患者とコミュニケーションをとりながら診察を行います。自動化されているため、待ち時間もほとんど必要ありません。
会社では、これまでの事務系の仕事はほとんどAIが行ってくれます。必要なのは、AIに指示を与え、その仕事ぶりを監視・補助することと、新しい商品やサービスを開発したり、AIが分析してくれた経営状態を見ながら経営戦略を練ったりすること。身体を使った仕事もありますが、これも多くの部分がロボットで代替されるようになっていくでしょう。
もちろん、これらのすべてが実現するのは、もっとずっと先のことで、AIが高度に発達し、さまざまな仕事の細部にまで組み込まれるようになってからです。
いまでもスマートフォンが使いこなせなかったり、スーパーのセルフレジが使えないから有人のレジに頼ったりしてしまう人もいますが、AIが普及した時代では、これらを使いこなせない人は、いまよりも不便な社会生活を強いられることになりかねません。
AIなどたいしたことはない、などと思っていると、気がついたら仕事を奪われ、日常的な社会生活も不便になり、時代に取り残されてしまうかもしれません。そうならないためには、AIに何ができるのか、人間にしかできないことは何なのか、それをよく考えてみるべきでしょう。
業務がどれだけAIに置き換わるかを常に検討するべき
チャットGPTが登場して、まだ1年ほどしか経っていません。そのため、企業のなかには生成AIに対して懐疑的な印象を持ち、自社では生成AIの利用を禁止する、といった判断を下している企業もあります。自治体のなかにも、正式な書類や資料作りに生成AIを利用することを禁止する、といった通達を出しているところもあることはすでに述べたとおりです。
たしかに生成AIにはリスクがあります。生成AIが出した回答には間違いがある、といったリスク以上に、たとえば生成AIのプロンプトに入力した情報が、外部に漏れるといった危険性も指摘されています。
チャットGPTが最初に問題になったのは、プロンプトに入力した情報がAIの学習に使われている点でした。もちろんオープンAIでは、ユーザーが入力した情報をAIの学習に使用しない、というオプションを選択できるようにしていますが、とくにEUのように個人情報の取り扱いに慎重な国では、政府や公共機関が生成AIを利用することを一時的に禁止している国も出ています。
入力したデータが、AIの学習に利用されないよう指定できても、社員のなかにはこのオプションを設定せずに社外秘のデータを入力してしまう、といったミスを犯す人も出てくるでしょう。それらのミスを回避するために、社員のITリテラシーを高める教育も必要になってきます。
生成AIが作成したもののなかには、著作権を侵害するようなものも出てきます。とくに画像分野では、多くの写真家やイラストレーターなどから、AIの学習データから著作権のあるものを削除するよう要望も出ています。
これらの問題から、日本ではとくに大企業で、生成AIの利用に慎重になっています。しかし、著作権などの問題をクリアしつつ、生成AIが発展していくことになれば、社員の仕事が効率化し、生産性が上がることは間違いありません。それだけではなく、仕事そのものがAIに奪われ、企業の存続さえ危うくなる可能性もあります。
そのためにも、自社の製品やサービス、あるいは活動が、生成AIの発展でAIに置き換わってしまわないか、しっかりと検討することが必須となっているのです。
人間にしかできない判断ができ、ビジョンを描ける人が生き残る
今後ますます発展していくと予想される生成AIやAI全般ですが、そんなAI時代に生き残るためには、人間本来の身体性を活かすような仕事やシステムを作っていくことが重要です。
生成AIが回答するのは、すでに存在するデータやその組み合わせです。AIなら、銀座にある旨いラーメン屋を値段の安い順に上げることはできますが、値段以上に旨い、新しくできたラーメン屋を探し出す、といったことはできません。それができるのは、新規開店したラーメン屋に実際に訪れ、旨いかどうか、価格と比較してコストパフォーマンスがいいかどうかを自分の五感で判断した人だけです。
もちろん、それらの判断がデータとして蓄積されていくことで、そんな判断もAIが行えるようになりますが、身体性の高い仕事はAI時代にも生き残っていくのです。
さらに、AIは蓄積されたデータを基に、さまざまなことを分析することが得意ですが、明確なビジョンを持って将来を予測することはできません。どのような社会を作り上げるのか、そのためにどのような仕事や活動が必要なのか、そんなビジョンを持つビジネスパーソンだけが、AI時代を生き残れるのです。
生成AIは、やがてどのような仕事、企業、業界などにも浸透し、影響を与えていくでしょう。業界や仕事の内容によって、その影響の度合いや効果が異なるだけで、あらゆる仕事において必ず何らかの形でAIが活用されるようになるはずです。
このときAIに仕事を奪われないのは、AIにはできない仕事、つまり自分や自社は仕事を通じて社会にどう貢献していくのかといったビジョンを描く人・企業だけです。自らの身体性を発揮して人間にしかできない判断ができ、かつ、ビジョンを描ける人だけが、高度に発展するAI時代に生き残り、時代を切り拓いていけるのです。