COLUMN
2024/12/25

DXの成功を阻む壁を打破する鍵とは?
―DTMO(Digital Transformation Management Office)―

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第1回 DXに取り組む日本企業の現状と課題

デジタルトランスフォーメーション(DX)には人財、組織、システム、戦略など、多岐にわたる能力と高度な推進力が不可欠です。自社単独で取り組むには限界があり、外部の専門能力を取り入れることで、変革の成功確率を飛躍的に高めることが可能となります。
本コラムシリーズでは、DXに取り組む企業が直面する具体的な課題と、それらを克服するための実践について、以下の構成で詳しく解説していきます。さらに、Ridgelinezが提供するDX伴走サービスであるDTMO(デジタルトランスフォーメーションマネジメントオフィス)が、どのようにしてその支援を行うのかについても詳細に説明します。

第1回 DXに取り組む日本企業の現状と課題
第2回 DX成功のフレームワーク―デジタルガバナンスコードと「4X思考」―
第3回 人起点で進めるDX―DX人材を育成し、DXに共感する価値観を形成する―
第4回 DXのカギは事業部門主導と全社連携―経営層、事業部、DX推進部門の連携―
第5回 DXのパーパスを描き、至るストーリーを描く―DXビジョン・戦略・ロードマップ策定―
第6回 DXは企業価値向上のために―DX施策効果と経営価値向上との一体的設計―

シリーズ第1回では、DXに取り組む日本企業の現状と課題、その対応例について解説します。

日本企業のDXは着実に進むも社内向けの活動にとどまっている

デジタル後進国と呼ばれて久しい日本は、2024年の「世界デジタル競争力ランキング」で総合順位31位となりました。
2018年に経済産業省が「DX推進ガイドライン」を発表し、日本企業のDXが本格的に始まってから6年、IPA(独立行政法人 情報処理推進機構)による最新の「DX動向2024」によると、「すでにDXに取り組んでいる」とする企業は約74%に達し「成果が出ている」とする企業も約64%と着実に増加しています。しかし、2022年度の米国で9割程度の企業が「成果が出ている」と回答している状況と比べると、まだまだ道半ばと言わざるを得ません。
また、日本企業は、「アナログ・物理データのデジタル化」や「業務の効率化による生産性の向上」のように比較的取り組みやすい項目では成果が出ている割合が高い一方、「新規製品・サービスの創出」や「顧客起点の価値創出によるビジネスモデルの根本的な変革」は成果が出ている割合が低く、日本企業のDXは、依然として業務効率化などの社内向けの活動にとどまっている状況が読み取れます。

日本企業のDX推進における課題と外部リソースの活用

日本能率協会の調査によると(図1)、DXに取り組む日本企業にとっての課題は人材面、戦略面、事業面におけるものであり、これはRidgelinezが支援するお客様においても同様の傾向が見られます。

図1:DXに取り組む日本企業の課題
(出所:一般社団法人日本能率協会『日本企業の経営課題 2022』を基にRidgelinez作成)

図1より、人材面、戦略面、事業面の課題について「課題である」とした企業の比率を以下に示します。

課題1「DX推進に関わる人材が不足している(育成)」:85.9%
課題2「DXに対するビジョンや経営戦略、ロードマップが明確に描けていない」:67.8%
課題3「具体的な事業への展開が進まない」:65.5%

それぞれの課題と対応策について考えていきます。

課題 1「DX推進に関わる人材が不足している」
DXを推進する人材には、「デジタル知識」と「企業変革力」の2つの能力が求められます。多くの企業には情報システム部があり、デジタル知識に優れた人材が特定部門の業務最適化(DO:Digital Optimization)に取り組んでいます。これは日本企業が十分に経験を積んできた分野であり、これまでも高い成果を上げています。しかし、もう1つの重要な能力である「企業変革力」は不足していると言わざるを得ません。
企業変革は「事業や市場、社会の変革」を目指すものであり、全社的な視点で業務や事業を最適化することが求められます。また、新たなビジネスモデルを支えるデジタル活用が必要であり、社内だけでなく社外からの視点も重要です。
こうした活動は部分最適の積み上げや現場での意思決定を得意とする日本企業にとって、苦手な分野となっています。特に、お客様ニーズの観点から企業のあり方を考える経験が少ないものづくり企業にとっては困難を伴う取り組みであり、この点にDX人材不足という課題の本質があります。
図2にDOとDXの違いを整理しました。

図2:DO(デジタルオプティマイゼーション)とDX(デジタルトランスフォーメーション)

対応例1-1. 企業変革力の強化
企業変革力を高めるためには、経営層の変革意識醸成から始めます。変革リーダーの外部採用も必要になる可能性があります。また、同業界のベストプラクティスの理解を通じて、変革を学び、変革に対する組織的な自信を高めることも重要です。

対応例1-2. 全社横断的なアプローチの導入
組織間の連携を強化すべく、全社的視点で事業や業務の最適化を図るクロスファンクショナルチームを編成します。異なる部門の意見を取り入れ、組み合わせることで、より有機的な戦略の策定が期待できます。

対応例1-3. 顧客中心のビジネスモデル構築
顧客ニーズを中心に据えたビジネスモデルを再構築するため、顧客データの収集・分析を強化します。顧客データに基づいて製品やサービスを開発し、顧客体験を向上させるデジタル技術を活用します。アジャイルなビジネスモデルを採用することで、市場の変化に迅速に対応できる体制を整えます。
DX推進に関わる上記のような取り組みを通じて組織全体の変革力を高めることで、DX人材不足に対応することが可能となります。

課題 2「DXに対するビジョンや経営戦略、ロードマップが明確に描けていない」
デジタル活用が企業の成り立ちとなっている業界(※1)を除き、多くの日本企業にとってDXは初めての試みであり、最初から上手くかいないことは当たり前です。
多くの企業が「DXに取り組みたいが、何から始めたら良いのか分からない」「DX部門単独で戦略を策定したため、全社や事業部門と連携しておらず空回りしている」「DXビジョンは描いたが、成果が出るまで数年以上必要で経営層から承認が得られない」といった様々な問題に直面しています。
個々の問題への対応はコラムシリーズ第2回以降で取り扱うこととし、今回は、初めてDXに取り組む企業にとって課題解決の手掛かりとなるDXフレームワークをご紹介します。経済産業省の「DX推進ガイドライン」で策定された「デジタルガバナンスコード(図3)」です。

対応例2.デジタルガバナンスコード
デジタルガバナンスコードは企業変革のハード施策(ビジョン、戦略、組織、KPI、技術活用環境整備)と、ソフト施策(人材育成、企業文化醸成)の両面に言及した実効性の高いフレームワークです。DXにおける組織やタスク設計に活用できます。戦略の課題や施策への落し込み、実行能力の確保、進捗の確認開示を重視しています。
その活用にあたっては、DXを推進している他社の事例から同フレームワークの活用方法や意義を理解することから始めます。次に、デジタルガバナンスコードの流れに沿って現状のDX推進に関する取り組みを分析し、自社の現状や事情に即した最適なDXの進め方を描き、課題を抽出します。短期的にはDX認定(※2)取得を目指し、課題解決へのアクションアイテムやロードマップを策定することが効果的です。時間のかかるソフト面の施策には早期に着手することも重要でしょう。「デジタルガバナンスコード」は、企業活動全般にわたる指針を示していますが、多くの企業ではここまで広範な取り組みを行ってきた経験は少なく、その活用に際しては、内容を熟知し実践経験のある外部コンサルタントを活用することも有効です。

図3:デジタルガバナンスコード全体像
(出所:経済産業省「デジタルガバナンス・コード3.0」を基にRidgelinez作成)

(※1)IT・ソフトウェア業界、Eコマース業界、フィンテック業界、オンラインエンターテインメント業界、ソーシャルメディア業界、ゲーム業界など
(※2)経済産業省 DX認定制度(情報処理の促進に関する法律第三十一条に基づく認定制度)

課題 3「具体的な事業への展開が進まない」
事業への展開が進まない最大の要因は、経営戦略とDX戦略の分断です。経営戦略にDXが組み込まれていないため、同戦略の下位戦略である事業戦略においてもDXが適切に反映されず、結果として、事業部門のDXに対する無関心を招いています。DX部門が独自に戦略を策定したことで、全社や事業部門との連携が不足して実行性が乏しくなったり、事業部門のデジタル化ニーズを正確に把握できなかったりするケースが多くみられます。

対応例3.DX戦略と経営戦略や事業戦略との一体化
経営戦略とDX戦略を分断させることなく、全社的な動きとDX推進の取り組みを整合させるためには、全社/事業戦略をDX戦略に反映することに加え、未来志向で策定された長期的なDX戦略を反映することも重要です(図4)。このプロセスでは、事業部が自らの課題として主体的に取り組むことを重視する一方で、DX推進部門による強力な支援も欠かせません。具体的な手順は以下のとおりです。

1. 将来のDXビジョンや進むべき道筋を長期的なDX戦略として描き、長期経営戦略や事業戦略に組み込みます。
2. 中期DX計画の策定に際して、指針や各施策の目標、他社の動向などの情報をDX推進部門が事業部に提供します。
3. 中期の経営計画や事業計画、そして長期的なDX戦略を基に、事業部が中期のDX計画を具体化していきます。

図4:経営/事業戦略とDX戦略の連関図

経営戦略や事業戦略と連動し、かつDXとして将来目指すべき姿から組み込まれた中期DX計画の策定を実現する。策定は事業部主導で行い自分事化させることを図るが、DX推進部門も強力にサポートする。このような取り組みにより、DX戦略と経営戦略や事業戦略との一体化を実現することが可能になります。

まとめ

以上、DXに取り組む日本企業が直面する3つの課題(「DX推進に関わる人材が不足している」「DXに対するビジョンや経営戦略、ロードマップが明確に描けていない」「具体的な事業への展開が進まない」)に対する対応策を明らかにしてきました。デジタルトランスフォーメーション(DX)にはリーダーシップからデジタルリテラシー、顧客指向、経営戦略との一体的策定など、多岐にわたる能力が不可欠であるため、自社単独での取り組みには限界があることが一般的です。外部の専門能力を取り入れて自社の能力を補完し、変革の成功確率を飛躍的に高めることが肝要となります。

次回は、CX・EX・MX・OXの4つのXとTechnologyで包括的にトランスフォーメーションを実現するDX成功のフレームワーク「4X思考」とデジタルガバナンスコードについて解説します。

執筆者

  • 村上 和也

    執行役員Partner

※所属・役職は掲載時点のものです。

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