ダイバーシティとインクルージョンが会社を強くする -「一人一人の輝き」が生み出す強さとは-
2023年3月8日(水)~9日(木)、産経新聞社メトロポリターナ「Fem Care Project」主催のオンラインイベント「フェムテックを、もっと! ―家庭や職場でココロとカラダを学ぶ2DAYS―」が開催され、弊社登壇者が「社会課題解決型フェムテックの可能性」と「ダイバーシティとインクルージョンが会社を強くする」の2セッションに参加いたしました。
「ダイバーシティとインクルージョンが会社を強くする」のセッションでは、富士通株式会社 執行役員 EVP CMO 山本 多絵子氏、Haruka Inc. 代表 堀江 裕美氏、産経新聞 田邉 裕晶氏、弊社 関 優子、川嶋 孝宣が対談を行いました。
《登壇者》
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山本 多絵子 氏富士通株式会社 執行役員 EVP CMO三菱商事でシステムエンジニアとして経験を積み渡豪。ニューサウスウェールズ州立大学で修士号を取得後、日本のスタートアップ企業のシドニー支店を開設、安定稼働させた後、帰国。マーケティングのプロフェッショナルとしてマイクロソフト、IBMを経て2020年4月より現職、CMOとしてマーケティングのDXをリード。「社会人になってからは『女性』、海外に暮らす中での『日本人』、そして日本で仕事を変わる中での『転職者』として、さまざまなマイノリティの立場で生活してきた経験をシェアできればと思います」
■好きな言葉:Think Big, Fail Fast to Achieve More
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堀江 裕美 氏Haruka Inc. 代表
(株)アダストリア、カンロ(株)社外取締役
リーバイ・ストラウス ジャパンにて広報・マーケティング部長を歴任後、2005年にスターバックス コーヒージャパンに転職、CMOとして商品開発、マーケティング、デジタル、広報部門を統括。2016年5月より株式会社アダストリアの社外取締役に就任(現職)、2017年3月1日より独立し、現在はブランドマーケティングコンサル会社Haruka Inc.の代表(現職)、2021年3月よりカンロ株式会社の社外取締役に就任(現職)。
「リーバイスやスターバックスなど、米国資本企業の日本法人のマーケティングを長く担当していました。異文化の中で『相手はなぜこんな風に考えるのだろう』と常に思考しながら取り組んだ経験が今に結びついていると感じます」
■マイパーパス:空気をよくすること
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関 優子Ridgelinez 株式会社
Chief Diversity & Inclusion Officer 兼Principal
米系コンサルティングファームのブーズ・アレン・ハミルトン本社(ワシントンDC)にて15年余りに渡り組織開発・マーケティングコミュニケーション・D&I推進を担当。日産自動車では経営委員会直轄の部門横断課題解決を担当。デロイトトーマツコンサルティング経営企画執行役員を経て、Amazonにてシアトル本社レポーティングの事業開発担当部長としてグローバル組織の従業員エクスペリエンス・D&I・組織開発などに従事したのち、2022年2月から現職。
「学生から社会人時代の20年ほどの米国生活で、マイノリティとして生きてきた時間、また、周りに支えられてきた経験が今に生きていますね」
■マイパーパス:私が私らしくあることで、周りの人々を輝かせること
《モデレーター》
- 田邉 裕晶 氏産経新聞 編集局 記者■好きな言葉:黒い猫でも白い猫でも鼠を捕るのが良い猫だ
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川嶋 孝宜Ridgelinez株式会社
Director
■好きな言葉:Serendipity
※所属・役職は掲載時点のものです
目次
テーマ1:ダイバーシティの視点から、自分自身の強みをどう見つけましたか?
テーマ2:メンバー・リーダーとして周囲を輝かせ続けるためのヒントを教えてください
テーマ3:ダイバーシティを取り入れないと起こる「損」と生まれる「得」についてのエピソードを教えてください
テーマ1:ダイバーシティの視点から、自分自身の強みをどう見つけましたか?
川嶋:価値観が多様化する現代社会において、ダイバーシティ&インクルージョンという言葉はとても大事なものであり、会社の強さの源泉であると考えています。会社の強さとは、従業員一人ひとりの強さとも言い換えられますし、従業員一人ひとりが輝き続けながら働くことが、組織の強さにつながっていくのだと思います。
本セッションでは、ビジネスリーダーである3名の登壇者に、個人として輝き続けながら組織にも力を注いでいくための秘訣を伺います。
堀江氏:両親をはじめ周りの人にかけてもらった言葉
私の場合、自分で強みを見つけるというよりは、周りの人から教えられたことが多かったように思います。たとえば幼少期、両親に「裕美はとても向上心が強いね」と言われたことで「向上心は私の強みかも……」と考えるようになりました。また、リーバイスやスターバックスの退職時に同僚から声をかけていただいた際に、「いつも笑顔で接してくれてありがとう」「いつも元気をいただいた」というコメントが多かったんですよね。当時の私は、マーケティング職として責任のある立場にあったのですが、その仕事ぶりよりも、周囲への声がけの方に価値を感じてくれていたというのは意外でした。このように、周りに評価され感謝されたことで、声がけによって場の空気を良くすることが自分の強みなのだと見出せました。今では「空気をよくする」は私の信条です。
山本氏:Strengths Finder
前職は、競争が激しい外資系IT企業でした。ちょうど女性登用が推進されていた時期だったのですが、私自身は管理職である自分のポジションに自信を持てず、限界を感じていました。そんな時、コーチングを受ける機会がありまして、コーチから「ストレングスファインダー(米国ギャラップ社が開発した才能診断ツール)」の受講を勧められました。診断によって自分の持っている強みが明らかになるのですが、強みの伸ばし方や発揮の仕方などを考える良い機会となりました。堀江さんのケースとは異なり、自分一人で分析するという手法ではあったのですが、自分自身の強みを見つけられ、新しいキャリアに挑戦する後押しになりました。
田邉氏:それぞれがご自身の個性を、さまざまな機会で魅力に変えてきたように感じます。とはいえ、自分の強みを自覚するという機会がないと感じている人もいるのではないかと思っていて、「みんな違ってみんないい」と言いますが、自分の強みを自覚できてはじめて生きてくる言葉だとも思います。自分の魅力に気づくことが難しいと感じている方へのアドバイスがあれば教えてください。
関:周りの人たちからの声
私は、自分の強みは自分でみつけなくてもいい、と思っています。強みや魅力が自分ではわからない時は、周りに聞いてみるのも一つの手かなと思います。自分にとっては当たり前なことでも、他の人にはできなかったり難しかったりすることもあります。自分の強みは、実は自分が一番見えていないのかもしれません。 ですので、周りの人たちから「優子は□□が得意だね」など言ってもらえることで、自分の強みに気づくことができます。特に、フィードバックをする・されることが日常である米国では気づきも多かったですね。私自身も、周りの人たちの強みを見つけフィードバックする存在でありたいと、常日頃から心がけています。 「これが自分らしさ、自分は自分でいい」と思いながら、少しずつ自己開示していくことで、周りがその魅力に気づいて自然と伝えてくれるようになります。
山本氏:私もチームビルディングをする時に、お互いを褒め合う機会をつくるようにしています。「あなたのここが良いよ」など言い合える環境を自分からつくっていくというのも大事ですよね。
テーマ2:メンバー・リーダーとして周囲を輝かせ続けるためのヒントを教えてください
堀江氏:空気を一変させた出来事から学んだこと
スターバックスジャパン時代の話です。あるプロモーションを行った際、イベントの10日前に急な会議招集があったんですね。商品に不具合があり販売ができなくなった、という大きな問題でした。実は現場では、一ヵ月前からその問題を把握していてそれを挽回しようとしたけれど、どうしようもなかったという経緯があったそうです。そんな凍った空気の中で、私がぽろっと、「消費者に商品が渡ってからのリコールにならなくてよかったね」と言ったんですよ。すると、その場の空気が一変し、「そうですよね!」「次に何をすべきかにフォーカスしましょう!」など前向きな発言が次々飛び交ったんです。
これは、私の強みを強く意識させてもらった出来事でした。自分のたった一言で、周りの空気もみんなの言動も前向きに変えられるんだということに気が付きました。それ以来、何かを伝える際には、どのように伝えたら周囲の人たちがモチベーション高く行動できるかを意識するようになりましたね。
関:周りの人たちに素晴らしいところを伝える
相手の素晴らしいところを伝えると、本人にとっては思ってもない一言だったりするんですよね。自分のいいところに気づいてもらえることは、その人のモチベーションにも繋がります。周りの人たちにフィードバックをすることで、自分もフィードバックをもらえるようになり、自然とよいループが生まれます。誰にでも弱み・強みがある中で、マイナスをゼロにするのではなく、プラスを倍増させるような、強みを活かしたそれぞれの活躍の仕方があるはずです。私自身が応援団となって、周囲の人を輝かせていきたいですね。
山本氏:コーチ
「輝き」は、人の中にあるものだと私は思っています。それを自覚して自信を持つことによって輝き出しますし、周りも認識できるようになると思います。私は、日頃から部下を観察して、得意なことを見つけておきます。そして1on1の中でメンバーのやりたいことをヒアリングして、そのニーズにマッチし、かつ得意なことが活かされるプロジェクトに促してみるんです。結果としてうまくいくことが多いのですが、その成功によって部下が輝き始めるんですよね。このプロセスはいわゆるコーチングの手法ですが、本人の口から「やりたいことを引き出す力」が大切なのだなと感じています。
テーマ3:ダイバーシティを取り入れないと起こる「損」と生まれる「得」についてのエピソードを教えてください
関:毎日私たちが実践していること
私がリーダーを務めるRidgelinezのD&I推進室は、私を含めて4名のメンバーで活動しています。みなそれぞれ、キャラクターもスキルもバックグラウンドもまったく違うんですね。そんな私たちが毎日実践しているのは、お互いの違いを受け入れて、お互いの強みを持ち寄るということです。D&I推進室の業務の中から、その業務が得意な人にお願いをしています。そうすると、どんどん活動が加速していきます。本当に得しかありません(笑)。
ダイバーシティを取り入れることで、一人ではできない大きなことをチームとして成し遂げることができると日々実感しています。
堀江氏:外資系で異文化の壁にぶつかって
リーバイスに勤めていたころの失敗談です。日本のマーケットで日本人に向けたサービスを展開する必要がある中で、米国本社とぶつかるシーンが多かったんですね。自分たちが「良い」と思っているものと異なる方法を押し付けられているように感じることが多く、「本社は日本のマーケットをわかっていないのではないか」と思っていました。
そんな時、ある社員が「私たちの強みは24時間365日、どこかの国で誰かが商品・サービスのことを考えていることが強みだよね」と言ったんですね。何となくその言葉に納得して、その後、少し変だなと思える施策でも「面白いかもしれない」と受け入れてみたんです。結果、非常にうまくいったんですね。その時に、“自分の物差し”がものすごく小さかったことに気づき、「日本だったらこうでないとダメ」という思い込みがあったのだとわかりました。
この失敗を経て、ダイバーシティはちゃんと取り入れないと損ではないかと思うようになりました。同じような考え方・物差しでは、同じようなものしか生まれない。ダイバーシティを取り入れることで化学反応がおき、イノベーションが生まれる機会になるんだと強く認識するようになりました。
川嶋:そもそも「損」「得」という表現ではないのかもしれませんね。ダイバーシティを取り入れることは当たり前のことであり、その当たり前を取り入れないことが「損」につながるのですね。
山本氏:ブランド
「損・得」の前に、ダイバーシティを受け入れないと企業として生き残れない、生存の問題だと認識しています。堀江さん同様、私も長くマーケティングに携わっていますが、広告やSNSで扱う情報を作り上げていく中で、ダイバーシティは、ブランドや企業価値に関わる重要な観点であると感じています。ダイバーシティを語る上で、「アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)」がテーマとしてよく出てきますよね。バイアスがあることは悪いことではないと思いますが、国や文化などによる違いがある中で、“自分の普通”が偏ってしまうと、間違いが起こってしまいます。誰にも、自分の「普通」があります。大切なのは、偏りをなるべく作らず、いろいろな人と話をしながら企業文化を作っていくことだと思っています。
田邉氏:世代間の意識の差、についてぜひお伺いしたいと思います。私がいる新聞業界でも、一世代前と自分たちの世代では価値観が異なっており、世代間の意識の差がダイバーシティの壁になるのであれば、それを解消するためにどうすればいいと思われますか。
関氏:私は、世代間ギャップがある、という前提は悪い面だけではないと考えています。先輩・後輩それぞれの立場から学ぶことはあると思いますし、世代間の差も多様性の一部ではないでしょうか。
堀江氏:SNSなどのおかげで、今までは経験しないと得られなかったものもいくらでもリーチできる時代ですよね。そういう環境の中で、「上の世代が教える」「下の世代が教わる」という図式はなくなりつつあるとも感じます。私自身も、若い世代に対する気負いは捨てて、一緒に面白いものを面白いと感じていきたいと思っています。それが、ダイバーシティを受け入れることの面白みでもありますよね。
堀江氏:私も多様性を取り入れるのが、最初は難しかったんですよね。同じ物差しで同じような目線で肯定していける環境のほうが断然気分が良いのですが、一方で、そういったセーフティーゾーンにとどまってはジャンプできないことは、たくさんの失敗や経験を通して学びました。
それぞれが自分の物差しを変えていけると、もう少し多様性を取り入れられる世の中になるのではないか、と期待しています。
山本氏:どのお話も、「自分から扉を開いて飛び込んでいく」というのがキーワードだったように感じます。そこでの会話の中から自分も勇気づけられ輝けるし、自分の発した言葉で相手も魅力に気づき輝いていく……。こういう流れの中で、ダイバーシティ&インクルージョンが進んでいくのだと思いました。
田邉氏:「多様性は大切だ」ということは、頭の中ではわかってはいるものの、何をすればよいのかわからなかったんですね。皆さんのお話を伺って、実は身近なところに今日から取り組めることがたくさんあるということに気づくことができました。私自身も、日常の中で取り入れていきたいと思います。
川嶋:そうですね。ダイバーシティとインクルージョンを「普通のこと」にしていきたいですね。
※法人名、役職などはイベント開催当時のものです。