「明日(いま)、経営会議を見直してみませんか?」ー変革に必要な施策の組み合わせー
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昨今、データドリブン経営の必要性が一層高まる中、BI(Business Intelligence)ツールを導入する企業は年々増えている。しかしながら、月次報告などの経営会議では、BIツールが有効に活用されることはなく、多大な工数をかけて作成したパワーポイント(PPT)資料を読み上げる(報告する)だけで議論に割く時間がないというように、BIツールを経営の意思決定に有効に活用できていない企業が多い。「経営会議のあり方を変革したい」という想いはあっても、歴代の経営陣がこれまで行ってきたものを変えるには多大な労力が必要であり、単一のツール導入だけでは限界がある。経営会議のあり方を見直し、真のデータドリブン経営を実現するために必要な施策の組み合わせを紹介する。
旧態依然の経営会議
機関投資家の行動規範であるスチュワードシップ・コードは2014年、上場企業の企業統治のガイドラインであるコーポレートガバナンス・コードは2015年に示され、以降、3年ごとにそれぞれ改訂されてきた。これに対応して企業は、(「監督」機能を担う)取締役会の実効性評価を実施するなど、コーポレートガバナンスの改革を進めている。一方の「執行」機能はどうだろうか? 「執行」のあり方、例えば経営会議の運営についてはガイドラインなどで定められているわけではないため、経営会議の様子は数十年前からほとんど変わっていない企業が多いのではないか。よく目にする(あるいは耳にする)経営会議の様子を列挙してみよう。
例えば、こんな経営会議が行われていないだろうか?
- とにかく、報告する人が多い(場合によっては、後ろに控えの参加者もいて、総勢100人近くに膨れ上がっている)
- 報告だけで半日~丸一日かかってしまう
- 報告のみで、議論するアジェンダになっていない
- 報告されている数値が正しいかどうかもよく分からない
- 一か月以上前の数値が報告されている
- 定性的な情報はアピールばかりで、課題が何か、あるいは課題があるのかないのか分からない
- 明確な課題があっても、原因が何かまで突き詰められておらず、「早急に原因を解明してしかるべき対策を検討してまいります」でお茶を濁す
- 他部門の報告は真剣に聞かず、手元のPCやタブレットでemailやSlackの返信など雑務の処理をしている
執行役員や部門長など上層部が一堂に会して、単なる報告に半日~丸一日を費やしているのは、時間がもったいないと言わざるを得ない。経営会議は、執行部門の中で、「コストに対する付加価値が最も低い会議」といっても過言ではない。
また、会議そのものだけでなく、そのための準備にも膨大な労力をかけている。
- 各部門で時間をかけて数字集計、事実を確認しながら、PPT作成する
- 部門長への説明や関連部門への根回しに時間を費やす
- 部門別の資料を事業部などで取りまとめる際に、転記ミスも発生する。さらに悪いことに、ここで都合の悪い数字に手を加える、あるいは隠すということも起こり得る
- これらの行為が部門→本部、本部→事業部、事業部→コーポレートの各段階で発生している
その結果、価値を生まない行為に多大な時間が費やされ、日の目を見ることのない補足ページが増殖する。最終的に100ページを優に超えるPPT資料を毎月作っていないだろうか?
さらに、報告では計画対比で語られることが多いが、
- そもそも、計画作成の段階でこんなことが起きていないだろうか?
- 各部門で個別に計画作成、前提条件もバラバラ
- 売上、原価、人員などを切り出すと整合性が取れず、各部門で再検討。多くの関係部門間でExcelのバケツリレーが繰り返される
- 合計が全社目標に届かず、全社からの「もっと積み上げろ」の指示の下、形だけ取り繕った「後付けの計画」となる
- そして計画対比においても、「後付けの計画」でどうやって実現させるかの策がないために、未達の要因を特定できず、挽回可能かどうかも分からない
- 結局、的確な打ち手について論じられることがない
というように、計画作成、計画対比でも作業の効率化、価値向上の余地は大きい。今まではそれでもなんとかなったかもしれないが、企業が置かれている環境は変わってきている。
- 顧客の嗜好の変化、あるいは新しい競合の参入など、前線で起きている変化のスピードが速くなっている
- 技術の進展によって、高度な経営管理ができるようになりつつある。例えば、BIツールの活用によって、経営情報の包括的な把握やタイムリーな業績把握ができるようになってきており、以前に比べると随分使いやすくなっている
環境の変化と事業のパフォーマンスを俊敏に捉えて経営の意思決定に活かす、いわゆるデータドリブン経営の必要性が叫ばれて久しく、データドリブン経営先駆者は3倍の利益率成長を実現しているという調査もあり(*1)、実際、データドリブン経営を実践している企業の成長率は高いと言われている。
データを経営に活用しようという動きは随分前から進んでおり、BIツールを導入した企業は増えている。しかし、Tableauによると、収集される情報量はかつてないほど増加し複雑になっているため、組織ではデータの管理と分析が困難になり、経営幹部の98.6%が自社の組織がデータ駆動型の文化を望んでいると回答しているのに対し、成功したと回答したのはわずか32.4%だったという調査結果がある(*2)。十分な活用には至っていないのが実情のようだ。
では、なぜ部分的な活用にとどまってしまうのだろうか?そしてなぜ成果に結びつかないのだろうか? 1つは「活用シーンを定義できていない」ことにある。BIツールを普通に導入しただけでは経営会議で使われないし、使われたとしても原因解明や今後の打ち手についての議論がなされなければ、ただの可視化で終わってしまう。2つ目は「完璧なもの、包括的なものを作ろうとしてしまう」こと。最初から完璧なものを目指すと、下手をすれば構築に1年以上かかってしまう。早期に成果創出を期待する周囲からの視線が厳しくなり、途中で頓挫することもある。また最初からスコープを広げすぎると、対処しなければならない抵抗や反発に押しつぶされてしまうこともある。3つ目は「ユーザーがメリットを感じない」ことだ。新しいものを追加するなら、例えば経営会議用のPPT資料をなくすなどしないと、今までの工数+αになって疲弊が積み重なるばかりであり、これも組織に根付かない理由の1つだ。
米国のBlue-chip企業(*3)を対象にした調査(The Journey to Becoming Data-Driven: A Progress Report on the State of Corporate Data Initiatives, NewVantage Partners LLC)(*4)では、9割以上の企業が、データドリブンな組織になるための最大の障壁は「人材・ビジネスプロセス・そして企業文化」と回答しており、ピーター・ドラッカーがかつて言った“Culture eats strategy for breakfast(戦略は文化の前には歯が立たない)”という言葉を思い起こさせる。
では、どうすれば、データドリブン経営の実践に向けた、経営会議の改革を実現できるのだろうか?
(*1)マッキンゼー・アンド・カンパニー黒川ら,「データドリブン経営の本質」,Harvard Business Review,2019
(*3)Blue-chip企業:アメリカで優良株式銘柄のことをいう。収益性、成長性にすぐれているだけでなく財務的基盤も磐石とした企業を指す。
経営会議の目的・あるべき姿
まず、データドリブン経営を実践するための経営会議とはどういうものかを考えたい。
そもそも経営会議の目的は、過去・現在の状況、そして将来予測に基づいて、執行機能としてこれからの打ち手や施策を意思決定することである。この目的を確実に果たすために、経営会議および前後では以下が求められる。
- 経営会議では、下記の要件を満たす必要がある
- 正しい、最新の数値が分かりやすく共有される
- 各部門から、課題・原因・打ち手案が提示される
- 打ち手について他部門の協力が必要であれば、部門長同士で討議できる
- 今後の打ち手が明確に合意される
- そのために、下記のことが日常的に(あるいは経営会議の前に)行われている状態である必要がある
- 正しい、最新の数値が常に可視化されており、容易に課題が特定できる
- このままだと今後どうなりそうかの予測も示される
- 経営会議の前に、原因解明と打ち手の検討に時間を費やすことができる
- 資料作成と根回しで時間を使わない
- そして、経営会議後には、下記が行われている必要がある
- 合意された打ち手が解釈の齟齬なく、正しく前線に伝わる
- その打ち手の実施度、成果がモニタリングされる
前述したことは何も新しいことではなく、概ね理解されていることであろう。しかし、分かっていてもできない、あるいはやろうとしても難しいという方が大半ではないだろうか。では、何が難しいのだろう? 「監督」機能を代表する取締役会との対比で考えると、取締役会は「独立かつ客観的な経営の監督の実効性」がコーポレートガバナンス・コードで求められるなど外部からの変革の要請があり、また一部の企業には社外取締役の選任が義務化され、実際に社外取締役の人数が増加しているように、外部の視点が入りやすく、新しい風や緊張感が改革を促している。一方、「執行」を担う経営会議はどうだろうか? 多くの日本企業では、役員の入れ替えは起こりにくく、数十年もの間、同じやり方を疑うことなく続けていることも珍しくない。新任の役員が「経営会議のあり方を変えるべきだ」と思っても、歴代・現任の経営陣がこれまで行ってきたことについて物申しにくく、変えようと思っても、その大変さが想像できてしまうため、結局何もしないこと(現状維持)を選択してしまう。
経営会議改革のアプローチ
現状維持から抜け出すためのアプローチを示しておきたい。
この【図2】では、抵抗への対応や説得に必要な手間、大変さを「取引コスト」と表現しているが、これが大きすぎると合理的に何もしないことを選択してしまうという「慣性の法則」を表している。このような慣性の法則から抜け出すためには、下記のアプローチが必要である。
- 1つ目は、新しい体験を通じて「いいね」と感じてもらって、その抵抗を和らげる
- 2つ目は、一度にやろうとすると関係者が多く様々な抵抗に対応しなければならないため、小刻みに手を打ち、ひとつひとつ解決していき、それを継続させる
このアプローチを、経営会議を題材として行うと、データドリブン経営の実践につながることを補足しておきたい。
- 文化を変えるためには意識改革からという声もあるが、まずひとつひとつの行動を変えることが後に意識改革につながる
- 社員ひとりひとりの行動を変えるのは最初の一歩としてはあまりに重すぎるため、まず経営陣の行動を変え、率先垂範で組織に行き渡らせる必要がある。幹部は経営陣を、社員は幹部を見ているものだ。経営陣の行動が変われば幹部、そして社員の行動が変わってくる。良い例を示すという意味もあるし、部下にとってのプレッシャーになるという意味もある
すなわち、改革の題材を「経営会議」に絞り、経営会議がデータに基づいて意思決定を行う場として機能するようになれば、その事前に行う部門会議やチーム会議もおのずと経営会議のあり方に近づくはずだ。
経営会議改革に必要な施策
経営会議の改革にあたっては、「可視化」「技術活用」「FP&A (Financial Planning & Analysis)機能強化」の組み合わせが必要だと考えている。
①「可視化」:経営会議で、ダッシュボードを活用した報告を経営陣に体験してもらう
②「技術活用」:事前準備の工数を削減し、本来の業務に割り当てる時間を増やす(現業部門の抵抗を和らげることにつながる)
③「FP&A機能強化」:経営会議における意思決定を補佐する機能、すなわちFP&A 機能を強化する
どれか1つだけを集中的に行えばよいというものではなく、この3つの施策を組み合わせて、体験を通して経営陣に意義を感じてもらい、小刻みであっても経営陣の行動を変えていく必要がある。
①「可視化」
経営会議という「❶場を設定する」ことが最初のステップ。その経営会議で活用するダッシュボードを包括的なものにしようとすると、時間がかかりすぎてしまうため、まずは極めて重要な「❷指標を絞り込む」。この段階では、すべての指標をカバーできていないため、従来のPPTやPDFの資料も併存させる必要はあるが、当該指標を報告する際にはダッシュボードを用いて説明する。ここで経営陣にダッシュボードを「見る」という体験をしてもらう。そして、次の経営会議では、タブレットなどで実際に「❸経営陣に使ってもらう」ことによって、体験を「見る」から「操作する」に一段引き上げる。このように実際にダッシュボードを見て操作して議論する、ということを数回繰り返す中で、「チャートの軸の設定」や「強調すべき項目の色」などUIに関することから、「もう少しドリルダウンして数値を確認したい」、「この指標から何か意味合いを出すためには、別の指標も同時に見られるようにしたい」など意思決定を高度化するための本質的な内容まで、様々なフィードバックを引き出せるようにする。これらのフィードバックをもとにブラッシュアップしつつ、対象とする指標を拡大して次の経営会議で活用する。これが「❹Brush-up & 対象を拡大する」にあたる。
ここで重要なポイントとなるのが、実際に経営会議で毎回活用することによって、一過性のものではなく取り組みを継続させることだ。アドホックなイベントとしてお披露目してしまうとその時は「いいね」という声が聞けても、忙しい役員が集まる場はなかなか設定できない。定期的に実施される経営会議の場で行うと相互に緊張感が生まれ、継続的な取り組みにすることができ、最終的には指標の網羅性を担保したダッシュボードを用いて、経営会議を行うことができる。
もう1つ重要なことは、その際に各部門で多大な時間を費やしていたPPT資料をなくすことである。経営陣だけでなく、報告する側にもメリットが必要であり、前線に近い人たちが本来の業務に時間を使えるようにしなければ長続きしない。
②「技術活用」
PPT資料作成をなくすだけでなく、業績集計も自動化することで、各部門の負担は大きく減らすことができる。つまりは「❺業績集計を自動化する」ことが必要となる。従来は、膨大な部門管理表(Excel)のバケツリレーを行って、マクロなどを使いながら業績レポートを作成し、それを例えば経営管理のような本社機能が集計していた。しかし、現場の負担を減らし数値の精度を上げるために、業績集計システムと連携するデータ基盤を整備し、ダッシュボードにほぼ自動反映できるようにする。次に、その自動化された業績集計をベースに「❻計画作成をデジタル化する」こと。冒頭でも触れたが、計画作成における問題は、部門間でのExcelのバケツリレーと「後付けの計画」であった。この状況から抜け出すために、統合的に計画を作成するためのプラットフォーム、代表的なものとしてはAnaplanのようなConnected Planningといわれるツールを活用することによって、Excelのバケツリレーをなくすことが可能になっている。後に詳しく述べるが、このときFP&Aの役割を持つチームも参加させると、事業内容とともに根拠も理解できるため、根拠を持った計画にするよう働きかけることができるようになる。事業側としては「後付けの計画」ではなく、「根拠のある計画」を作ることができる。これが後の計画対比において、原因解明、打ち手の検討をする際に意味を持ってくる。
「❺業績集計を自動化する」および「❻計画作成をデジタル化する」技術活用は、事業側にとっては負担を減らすというメリットになり、さらに経営にとっても、鮮度と精度の高い数値を以って意思決定できるメリットをもたらす。
③「FP&A機能強化」
この施策として「❼事前に、部門と共同で課題特定、原因解明、打ち手の検討を行う」、「❽経営会議で意思決定を支援する」の2つを挙げたが、実際に具体的なイメージを持っていただくために、経営会議でのやり取りの例を用いて、経営会議におけるFP&Aの役割について説明する。ここではダッシュボードを用いた経営会議を想定した。
まず事業部が、「何が起きたか」=利益が未達であること、「なぜ起きたか」=原材料の高騰が主要因であることを説明する。そしてFP&Aが利益未達の要因の内訳は「原材料の高騰が80%、大規模案件のスケジュール遅延が15%」とその説明を補足し、「何をすべきか」について、価格転嫁、生産体制の見直し、などの打ち手案(オプション)が提示され、それぞれの効果やリスクを評価して、価格転嫁が最善の策であることが説明される。これらの打ち手案やその効果・リスクは、事前に事業部と共同で検討した結果である。このように、従来は現状の報告を通して課題がありそうだという認識を共有するだけだったものを、FP&Aが事業部と共同で事前に原因を明らかにし、検討したいくつかの打ち手を共有し、最終的な意思決定を支援するように変える。
また、経営会議の目的で前述したように、これから先、どうなりそうかも予測し、先んじて手を打つ必要もある。
この観点からも、まず「何が起きそうか」について、事業部がパイプラインの状況に基づき、売上は達成見込みであることを説明する。そしてFP&Aが客観的にその見込みは正しそうだという補足説明をする。しかし、FP&Aは総合的にみたときの懸念事項として、「特定のサービス利用顧客の解約が増えている」ことを指摘し、このままだと全社売上の5%を失うリスクがあることを提起する。さらにダッシュボードには載っていない情報、ここではCS調査の結果から解約が増えている要因と具体的な解決策を提示し、経営会議での意思決定を支援する。
これらが経営会議と事前準備でFP&Aが果たすべき役割であり、FP&A機能が加わってこそ、経営会議の改革、意思決定の高度化につながることになる。
①「可視化」、②「技術活用」、③「FP&A機能強化」のそれぞれについて、BeforeとAfterを【図7】に示した。これらの施策を組み合わせた新しい体験を通じて抵抗をやわらげ、小刻みであっても継続させることによって、経営会議の改革、ひいては執行部門の改革につなげることができる。
経営会議の改革にあたって
最後に、実際に経営会議の改革をどうやって進めていくかを示しておきたい。
成功の鍵は、3つの施策、すなわち①「可視化」、②「技術活用」、③「FP&A機能強化」をインパクトの大きい課題や事業に集中させること、そして途中で頓挫しないように定例会議にしっかり組み込んで継続させることである。
CFOであれば、例えばROIC (Return On Invested Capital) ツリーが念頭にあるだろうが、全体をやろうとすると時間がかかりすぎるため、まずは問題のありそうな特定指標のダッシュボード作成から取り掛かり、徐々に対象とする指標を拡げる方法を勧める。
事業部長や、例えば営業本部などの機能組織長の場合、自分の担当する領域の月次会議でトライすると良い。このとき、事業部に所属する事業経理にFP&A機能を担ってもらう。事業経理のように部門の数値を管理する人材が存在しない場合は、経営企画、財務経理、経営管理などのコーポレート部門に支援を仰ぎ、FP&A機能を担ってもらう。そこで意義があることを確認して、全社の経営会議の場で、新しいやり方でやってみると良い。
実際に経営会議を改革するには多大な労力が必要だろうが、現場・前線の方々に本来の業務に集中してもらう効果と、データに基づく意思決定の高度化による効果は、その労力を超えるに十分な価値をもたらすに違いない。
経営会議の改革に必要な3つの施策(①「可視化」、②「技術活用」、③「FP&A機能強化」)はいずれもRidgelinezで実践しているサービスである。慣性から抜け出し、「経営会議を変えてみよう」と思われた場合には、ぜひお声がけいただきたい。