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テクノロジーによる激動の時代の未来図(前編):ChatGPTの台頭に押され、会話型AI「バード」を急遽リリースした「絶対王者グーグル」に未来はあるか

2023年08月30日

テクノロジーの進化は息を呑むほど速く、AIはすでに私たちの日常生活に浸透しています。その中でも、最近、ビジネス界におけるAI活用の必要性を一層強調する存在として、ChatGPTなどの対話型AIが注目を集めています。この新たな動きは、GAFAMのような巨大企業の覇権にさえ挑戦を投げかけています。このようなテクノロジーを企業や社会でうまく活用していくためには、その新規性や利便性だけに目を奪われるのではなく、企業のビジネスモデルや従業員の働き方への影響、AIやデータ活用などのテクノロジーを取り巻くガバナンスといった、より包括的な視点を持って向き合うことが必要です。本コラムでは、前編・後編にわたり、対話型AIがもたらす企業の既存ビジネスへのインパクトや、それがどのように人の働き方を変えていくのか、その未来図を考察します。

※本稿は、田中道昭『GAFAM+テスラ 帝国の存亡』(翔泳社)の第2章「グーグルの検索ナンバーワンの時代は終焉か?」の一部を再編集したものです。

 

目次

  1. 圧倒的な存在感。世界のスマホ利用者7割以上がアンドロイドを選択
  2. アンドロイド、ユーチューブ買収による急成長
  3. テックジャイアントの売上を支える広告事業
  4. 検索結果とともに表示される"広告"が鍵
  5. 対話型AIを駆使した新たな検索スタイルの登場
  6. ビング、グーグルのシェア奪取に向けて挑む
  7. クリックなき広告時代
  8. 反トラスト法違反でグーグル、米司法省から提訴
  9. グーグル、EUのデータ保護規則違反で訴えられる
  10. 裁判の結果次第で、グーグルの活動に制限も

 

1. 圧倒的な存在感。世界のスマホ利用者7割以上がアンドロイドを選択

インターネットを利用するとき、多くの人が利用しているのが検索サービスや無料の電子メールサービスでしょう。この毎日利用している検索サービスや電子メールでは、多くのユーザーがグーグル提供のサービスを利用しているのではないでしょうか。

あるいはスマホ。スマホには、アップルから発売されているアイフォーン(iPhone)のほか、アンドロイド(Android)というOSを搭載したスマホと、その他のOSを搭載するものとがありますが、このアンドロイドというOSもまた、グーグルが開発したモバイル用のオペレーティングシステムであり、アンドロイドOSのスマホを利用するためには、グーグルが提供しているGメール(Gmail)がほぼ必須となっています。

自分はアイフォーンを利用しているから、アンドロイドやグーグルはあまり使わない、と思っている人もいるでしょうが、世界で利用されているスマホのシェアを比較すると、アイフォーンが27.1%であるのに対し、アンドロイドが72.27%となっています(図1)。その他のOSのものはごくわずかで、全体の7割以上がグーグル提供のアンドロイドスマホとなっているのです。

【図1】世界と日本、アメリカのスマホのOS別シェア(%)

 

2. アンドロイド、ユーチューブ買収による急成長

もっとも、アメリカと日本だけは例外で、アメリカではアンドロイドが42.61%、アップルが57.06%とほぼ二分。日本はもっと極端で、アンドロイドが31.39%、アップルが 68.5%と、世界とは真逆の結果になっています。

世界のスマホで最も利用されているアンドロイド、言い換えれば世界で最も利用されているスマホ用OSこそ、グーグルが開発・配布しているアンドロイドなのです。

ただし、元々アンドロイドはアンドロイド社が開発したもので、これを2005年にグーグルが買収し、07年にグーグルが中心となって米クアルコムと、キャリア大手のT-モバイルなどと規格団体を設立して、スマホ用OSとして発表したものです。そのため、アンドロイドそのものはオープンソースソフトウェア(著作権の一部が放棄されたソフトウェア)として以後、開発・配布されています。

グーグルは、時々このような企業買収を行うことで成長してきました。例えばユーチューブ(YouTube)。今でこそ動画投稿サイトといえば、真っ先に思い浮かぶのがユーチューブですが、このユーチューブは05年にスタートアップ企業として設立された小さな会社でした。これを06年にグーグルが買収し、以後、グーグル傘下の動画投稿プラットフォームとして、現在約25億人を超すユーザーを集めています。

 

3. テックジャイアントの売上を支える広告事業

検索サービスから電子メール、あるいはスマホのOSやスマホそのもの、ユーチューブ、オンラインストレージ、さらに電子書籍やビデオなどのコンテンツ販売など、グーグルが運営している業務や提供しているサービスは、実に多岐にわたっています。しかし、グーグルの屋台骨、つまりメインとなる売上は広告事業です。このことは、毎年発表される同社のポートフォリオからも確認できます。

【表1】グーグルの2021/2022年10~12月期の売上高の内訳(百万ドル)

 

表1を見るとわかるように、グーグルの売上で最も大きな割合を占めているのは、検索サービスで表示される広告です。ユーチューブで表示される広告や他のネットワークサービスで表示される広告なども含める場合、2022年10〜12 月期で見ると全体の78%が広告売上で占められています。

表1では22年末の数値に加えて21年の数値も記載していますが、広告売上が全体の売上高に占める割合は、わずかに下降しています。これはコロナ禍による景気の減速で、企業のインターネット広告の予算が減ってきたためと考えられます。全く同じように、検索だけでなくユーチューブの広告収入も、やはり減っています。

売上全体の中で、8割近くを広告収入に依存しているグーグルは、景気が減速すればその影響をもろに受けるリスクがあるのです。実際、2022年のアルファベット(グーグルの持株会社)の売上高の前年比伸び率は、近年の高い伸びとは対照的に9.8%にとどまっています。

 

4. 検索結果とともに表示される”広告”が鍵

グーグルといえば検索サービスを提供している企業のことだと思っているユーザーも少なくありません。

実際、インターネットで何かを検索することを「ググる」と表現することもあります。最新版の英語辞典『ウェブスター辞典』にも、「Google」という見出しがあり、「グーグルの検索エンジンを使って、インターネットから情報を入手することを意味する他動詞」と定義されているほどです。

この検索エンジンで検索を行うと、検索結果とともに広告が表示されます。この広告こそが、グーグルの大きな収入源のひとつなのです。

インターネット内の検索には、グーグルのほかに、マイクロソフトのビング(Bing)、ダックダックゴー(DuckDuckGo)、最近ではエックス(X:旧ツイッター)やインスタグラム(Instagram)、ティックトック(TikTok)などのSNSをグーグルの代わりに検索で利用するユーザーも増えています。

 

5. 対話型AIを駆使した新たな検索スタイルの登場

ところが、チャットGPTの出現によってこの分野が現在激変しようとしています。

チャットGPTというのは、人工知能型チャットボット、つまりユーザーの質問にAIを駆使して自動的に答えを返してくれる自動応答機能・サービスのことです。あるいは、「対話型AI」などとも呼ばれています。

チャットGPTそのものは、22年11月にオープンAI(OpenAI)がサービスを開始したものです。以後、わずか1週間でアクティブユーザー数が100万人を突破し、その後2か月で月間アクティブユーザー数が1億人を突破するという、驚異的なブームを巻き起こしています。

実は、マイクロソフトが提供している検索サービスのビングは、23年2月になってこのチャットGPTをビングに盛り込み、「新しいビング」としてサービスを開始したのです。新しいビングは、マイクロソフトのウェブブラウザ・エッジ(Edge)でのみ利用でき、検索を行うと、通常の検索結果とともにチャットGPTを利用した自動応答が表示されるようになっています。

チャットGPTを利用しなくても、ビングだけで、検索もAIを利用した対話も、両方が利用できるのです。 

対話型AIを搭載した新しいビングの登場で、検索はもうすべてビングで済ませてしまう、といったユーザーさえ出てきています。ビングがこの対話型AIを搭載したことで、グーグルに大きな変化が出てきています。

 

6. ビング、グーグルのシェア奪取に向けて挑む

ネット検索の分野では、これまでグーグルが圧倒的なシェアを握っていました。インターネット上の様々なウェブトラフィックの解析を行っているスタットカウンター(StatCounter)によれば、23年3月現在、検索エンジンのシェアはグーグルが全体の93.3%と圧倒的で、続いてビングの2.81%、バイドゥ(Baidu)の0.45%となっています(図2)。

【図2】検索エンジンのシェア(%)

 

ところが新しいビングの登場で、グーグルの独壇場が侵されようとしているのです。新しいビングはまだ出たばかりで、その伸びはまだ数字に表れてきてはいませんが、ゆくゆくはグーグルの後塵を拝していたビングが、グーグルのシェアを奪い始めることも予想できるのです。

もちろん、グーグルも手をこまねいているわけではありません。23年3月末、グーグルは会話型AIサービス「バード(Bard、吟遊詩人という意味)」をアメリカ、イギリスで一般公開しました。かねてより噂されていたサービスで、グーグル検索と連動する機能や複数の回答候補を表示してくれます(図3)。

【図3】グーグルの「バード」の画面

 

さらに5月の「Google I/O 2023」で、日本語を含む40超の言語で提供すると発表。直後から日本語でもバードが利用できるようになりました。

 

7. クリックなき広告時代

実はグーグルがかねてより噂されていたバードをなかなか公開しなかったのには、大きな理由が考えられます。

チャットGPTや新しいビングを利用したことがある人ならわかると思いますが、検索窓に質問や要望などを入力すると、チャットGPTならデータベースを検索して、それに適する回答を表示してくれます。あるいは新しいビングでは、チャットGPTのデータベースとともにネット上の情報を検索し、やはりユーザーの質問に最適な回答を表示してくれます。

対話型AIだけに、回答の上にさらに質問の候補も表示され、この質問を次々とクリックしていくだけで、かなり的確な回答が得られてしまいます。

グーグル検索上に、同じような対話型AIを搭載したらどうでしょう。これまでは検索を行い、ヒットしたサイトや広告をクリックすることで、ユーザーは適するサイトを訪れることができました。

ところが対話型AIでは、ユーザーは広告をクリックしなくても回答が得られてしまうのです。 広告収入に依存しているグーグルは、これでは屋台骨の広告収入に大きな影響が出てきます。だからこそ、検索に対話型AIを導入することをためらったのではないでしょうか。

しかし、チャットGPTや新しいビングの動きからか、あるいはAI時代の到来を見据えたのか、グーグルも早々に対話型AIバードの導入に踏み切ったのでしょう。

わずかな遅れが、先行者利益を逃すことは、グーグルも百も承知のはずです。グーグルならこの問題を何とか解決し、対話型AIをうまく駆使した新しい検索サービスを提供してくれるのではないでしょうか。

 

8. 反トラスト法違反でグーグル、米司法省から提訴

「出る杭は打たれる」というのは世の常ですが、創業時から圧倒的な速度を誇った検索エンジンや、グーグル・アップスのような本格的なクラウドサービス、そしてアドワーズという広告サービスなど、よくも悪くもグーグルは誕生時からテック業界の中でも〝出る杭〟でした。

その出る杭が打たれたのが、23年1月のアメリカ司法省による提訴でしょう。米司法省は、グーグルがデジタル広告で支配力を乱用し、反トラスト法に抵触していると提訴したのです。さらに、同社の広告管理プラットフォームの一部を売却するよう命じています。

反トラスト法というのは、日本でいえば独占禁止法にあたるもので、グーグルがデジタル広告分野で独占的な営業をしている可能性があるため、ネット広告の一部を切り離せ、というのです。

グーグルの利益の根幹は、広告事業でした。この提訴による裁判の行方によっては、同社のビジネスモデルの根幹をも揺るがす事態になりかねません。

 

9. グーグル、EUのデータ保護規則違反で訴えられる

あまりに杭が出過ぎたから狙い撃ちされた、といったら言い過ぎかもしれませんが、実はグーグルに限らずGAFAMは、その利益やユーザー数、蓄積されているデータ量などによって、世界中で様々な問題を引き起こしています。

グーグルが訴えられたのはこれが初めてではなく、20年にも独占禁止法違反の疑いがあるとして司法省から提訴されています。

このとき問題になったのは、アップルの標準ブラウザであるサファリ(Safari)のデフォルト検索エンジンに、グーグルを設定するよう多額の資金を支払ったというものです。

グーグルが訴えられたのは、米国内だけではありません。19年には欧州連合(EU)から5千万ユーロの罰金を科せられています。これは、EUの一般データ保護規制(GDPR:General Data Protection Regulation)に違反したためです。 

EUのGDPRというのは、「欧州一般データ保護規則」という規制で、EU加盟28か国とノルウェー、アイスランド、リヒテンシュタインの3か国を含む欧州経済領域で18年に施行された規制です(表2)。EU内のすべての個人情報のデータ保護を強化し、EU外への個人情報の輸出を規制しています。

【表2】GDPRの基礎的概念

21年7月には、アマゾンもこのGDPRに違反したとして、当時の日本円に換算すると約970億円もの罰金を科せられています。

 

10. 裁判の結果次第で、グーグルの活動に制限も

GDPRの規制は、施行当初からGAFAMのような巨大IT企業を狙い撃ちしたものだと、まことしやかに囁かれていました。考えるまでもなくビッグ・テック、あるいはGAFAMは、いずれもアメリカでスタートした企業であり、米国内にとどまることなくグローバル化しました。その結果、世界中からユーザーを獲得し、全世界をマーケットとして利益を上げています。

GAFAMの中に、あるいはビッグ・テックの中に、EU発祥の企業が1社でも入っていれば、GDPRももう少し穏やかなものになっていたかもしれません。本来自分たちが得られるはずのユーザー情報や利益が、アメリカ発祥の企業に根こそぎ持っていかれているという現状に、大きな危機感を持ったのでしょう。

ちなみに、22年11月には大手システムインテグレーション企業のNTTデータのスペイン子会社が、取引先の顧客情報漏えいに対する過失があったとして、GDPR違反で約6万4000ユーロ(約940万円)の制裁金が科されています。

今回の米司法省によるグーグルの提訴は、その訴状を見ると、バージニア州、カルフォルニア洲、コロラド州など8つの州も加わっています。裁判によっては、今後のグーグル活動にも影響が出てくるかもしれません。

 

執筆者

  • 田中 道昭立教大学ビジネススクール教授
    Ridgelinez 戦略アドバイザー

※所属・役職は掲載時点のものです。

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